研究課題/領域番号 |
23590706
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
右田 啓介 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10352262)
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研究分担者 |
上野 伸哉 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00312158)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 慢性疼痛 / 大脳皮質帯状回 / 下降性抑制系 / IPSC / GABA / プリン受容体 |
研究概要 |
ガン、糖尿病あるいは神経損傷などにより生じる神経因性疼痛は、現在使用されている鎮痛薬が効果を示さない重篤かつ難治性の疾患が存在し、早急に新規治療法の確立または新薬の開発が必要である。本研究では、慢性疼痛で想定される脊髄および高次中枢調節機構の変化について、特に大脳皮質帯状回に注目し、大脳皮質帯状回V層錐体細胞に対するシナプス伝達の変化、V層から下行性抑制経路の起始部と考えられる視索前野への神経調節様式およびP2X受容体の関与について検討し、疼痛の慢性化における上位中枢調節機構の解明を試みる。本年度の研究では,大脳皮質前帯状回V層錐体細胞に対する抑制生伝達について検討した。坐骨神経部分結紮2週齢の前帯状回では,自発性抑制生シナプス後電流の大きさ,振幅数,時定数に有意差は見られなかった。そこで現在,坐骨神経結紮モデルマウスの前帯状回II-III層刺激によるV層錐体細胞での誘発電流について,特にGABAによる抑制生伝達の変化の有無について検討を行っている。一方,坐骨神経結紮によるアロディニアは脊髄でのGABAによる応答が興奮性に転じていることが一因であると考えられていることから,GABAA受容体γサブユニットの輸送に関係しているPRIP-1を欠損した(PRIP-1-/-)マウスを用いて,脊髄での機能的変化を検討した。その結果,PRIP-1-/-マウスでは侵害性刺激や炎症性刺激による痛覚過敏がみられた。そこで,PRIP-1-/-マウスの脊髄における中枢性GABAA受容体の主構成サブユニットα1,β2,γ2の発現を検討した。PRIP-1-/-マウスの脊髄後角ではγ2サブユニットが減少していたが,β2サブユニットの発現増加が見られた。このように,脊髄におけるGABAA受容体構成の変化は,脊髄シナプスでの機能的変化を生じ痛覚異常を引き起こすことが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的では、神経因性疼痛における上位中枢調節機構の解明であり、痛覚情報の統合領域とも考えられる前帯状回でのシナプス伝達について検討を行っている。前帯状回で受けた情報は、V層錐体細胞から下位領域へ伝えられ調節されていることが考えられることから、神経障害性疼痛発症によりV層錐体細胞での興奮性および抑制性伝達が変化している可能性が高い。興奮伝達の可塑的変化が引き起こされる一因として抑制性伝達の異常も候補として挙げられる。しかしながら、自発性抑制性伝達には大きな変化は見られていない。そこで、GABAA受容体γサブユニットの膜輸送に関与しているPRIP-1を欠損したマウスを用いて、最初に痛覚情報の入り口である脊髄での変化を検討している。このように、慢性疼痛に対する中枢調節機構の解明は順調に進んでいる。今後、さらに各種疼痛モデル動物を用いて前帯状回でのシナプス伝達の変化を検討し、本研究の目的である慢性疼痛における上位中枢調節機構の詳細を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、慢性疼痛で想定される高次中枢調節機構の変化について、大脳皮質前帯状回V層錐体細胞に対するシナプス伝達の変化、V層から下行性抑制経路の起始部と考えられる視索前野への神経調節様式およびP2X受容体の関与について検討し、疼痛の慢性化における上位中枢調節機構の解明を試みる。前年度ではGABAA受容体γサブユニットの膜輸送に関与しているPRIP-1を欠損したマウスを用いて、痛覚異常に関与する脊髄における機能的変化について解析を行った。そこで、本年度以降では坐骨神経障害モデル,糖尿病モデルあるいはPRIP-1欠損マウスを用いて、大脳皮質前帯状回におけるシナプス伝達の変化およびタンパク発現変化について検討する。シナプス伝達に関する研究では、スライスパッチクランプ法により前帯状回II-III層からV層錐体細胞への伝達について、電気刺激による応答を記録し解析する。また、各モデル動物の前帯状回を取り出し、興奮性および抑制性シナプス伝達に関わるGABAA受容体やグルタミン酸受容体さらに細胞骨格に関与するドレブリンなどについて、リアルタイムPCR法による遺伝子発現およびウエスタンブロット法によるタンパク発現量の変化を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究では,感覚情報を受けた前帯状回V層錐体細胞から下降性抑制系へ直接あるいは間接的に情報が伝わっていると考えられるため、V層錐体細胞へのシナプス伝達およびタンパク発現について検討する。まず、坐骨神経部分結紮モデルマウスやストレプトゾトシン誘発性糖尿病マウスを作製する。前帯状回を含むスライスを作製し、ホールセルパッチクランプ法により興奮性あるいは抑制性電流を記録する。また、各モデル動物の前帯状回におけるGABAA受容体、プリン受容体またはドレブリンのmRNA発現変化についてリアルタイムPCR法を用いて解析を行う。さらに、それぞれの抗体を用いてウエスタンブロット法によりタンパク発現変化についても検討する。さらに、免疫組織化学法により前帯状回での分布の変化についても検討を行う。次年度の研究費は、上記した研究に対する動物や試薬の購入に使用する。
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