研究課題/領域番号 |
23590707
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
宮井 和政 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60283933)
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研究分担者 |
河谷 正仁 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00177700)
善積 克 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70553379)
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キーワード | ATP / セロトニン / 5-HT受容体 / 膀胱上皮 / 食道上皮 / 大腸上皮 / 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 / トリプトファン |
研究概要 |
膀胱上皮からのATP分泌に関しては、5-HT1D受容体が分泌抑制に働くのに対し、5-HT4受容体は分泌促進に作用すること、またそれぞれの受容体は下流のアデニル酸シクラーゼ-cAMP系を介してATP分泌を制御していることをこれまでに示してきた。平成24年度では、セロトニンと5-HT4受容体阻害薬の組み合わせによりATP分泌抑制がさらに延長することを明らかにし、両受容体の役割を再確認した。また、セロトニンの前駆体であるL-トリプトファンの膀胱組織への投与もセロトニンと同様にATP分泌を抑制することを示し、L-トリプトファンからセロトニンへの合成が膀胱自体で行われている可能性を示唆した。また、セロトニンの作用を増強する選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるCitalopramにもATP分泌抑制効果があることを明らかにした。これらの結果から、選択的セロトニン再取り込み阻害薬は膀胱の内臓知覚を伝える上皮からのATP分泌を抑制することで膀胱内臓知覚過敏を伴う過活動膀胱や間質性膀胱炎の治療薬の候補の1つとなりうる可能性を示すことができた。 平成24年度には、膀胱上皮に加えて大腸上皮、食道上皮における5-HT受容体サブタイプの発現もRT-PCR法で検討した。食道では平滑筋層における5-HT2Aの弱い発現が認められたものの、上皮においてはどの5-HT受容体サブタイプmRNAの有意な発現も認められなかった。一方、大腸上皮では5-HT4受容体のみが特異的に発現していることが明らかとなったが、膀胱上皮で主に機能している5-HT1Dの発現は見られなかった。この結果は、セロトニン-5-HT受容体の作用が膀胱、食道、大腸で大きく異なる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膀胱上皮に関しては、セロトニンシグナル系の全容をほぼ網羅できたうえに、選択的セロトニン再取り込み阻害薬が内臓知覚過敏の治療薬となりうる可能性まで示唆できた。その下流系に存在するアデニル酸シクラーゼ-cAMP系の働きについてはその成果が平成24年に国際雑誌に掲載された。また、セロトニン受容体の作用についても現在論文投稿準備中である。 食道上皮や大腸上皮におけるセロトニン受容体サブタイプの発現も明らかにできたことから、消化管上皮におけるATP分泌の制御経路に関する研究についてもその方向性が確立できた。以上の点から鑑みて、本研究は現在までのところはおおむね当初の目的に沿って順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
膀胱上皮におけるセロトニン受容体シグナル系の役割についてはほぼ解明できたことから、膀胱上皮に関しては今後はセロトニン受容体シグナル系と並行もしくは協調してATP分泌を制御するシグナル系を探索していく。その候補の1つが一酸化窒素(NO)-cGMP系である。cGMP作用を増強することでED治療薬として使われているSildenafilの効果も含めて検討していきたい。 消化管上皮に関しては、食道および大腸の上皮からのATP分泌制御機構がどこまで膀胱上皮と共通しているのか、何が異なっているのかを明らかにすることを目標とする。特に食道上皮においてはセロトニン受容体サブタイプの発現が認められなかったため、セロトニン受容体シグナル系の枠に留まらず、アデニル酸シクラーゼ-cAMP系、NO-cGMP系、Ca2+系など膀胱上皮で作用しているあらゆるシグナル系の働きを明らかにしていく。 さらに、内臓知覚過敏を伴う疾患のモデルラットを作成し、ATP分泌制御に働いている分子群の発現量をチェックし、その作動薬/阻害薬の病状に対する効果を解明していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においても、膀胱上皮にける実験データはおおむね良好でばらつきも少なかったために、使用した動物数や薬品量が当初計画よりも大幅に下回った。そのため、次年度に繰り越した研究費が出たが、平成25年度は膀胱上皮からのATP分泌に対するセロトニンの役割についての論文の投稿を1報予定しているので、その英文校正費、論文投稿および掲載費、および別刷りの代金に繰り越し分を充てる予定である。機器類はすべて揃っており今後も新たに必要となるものがないので、平成25年度の当初計画の研究費は昨年度と同様に主に実験動物費、薬品費、消耗品費に充てる。
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