アトピー性皮膚炎モデルマウスであるNC/Nga マウスは、specific pathogen free (SPF)存在下では皮膚炎を発症しないが、ダニ・埃の多いコンベンショナルな環境下では、皮膚炎を発症することが知られている。本研究ではこのNC/Nga マウスを用いて、アトピー性皮膚炎におけるストレスに対する生体の反応を皮疹、掻破行動、脳中オピオイド発現量、末梢血および脾臓中NK細胞数などの観点から検討した。 NC/Nga マウスでは、湿疹の生じていないSPF存在下であっても、他の系統のマウスと比較して、培養脾細胞中からのIL-4産生が軽度上昇し、IL-10、IFN-γ産生が減少していた。このことはNC/Nga マウスでは湿疹発症前より、Th2サイトカイン抑制系が低下していることを示している。そしてストレスの刺激によりさらにTh2へのシフトが強められていることを確認した。 また、痒み、湿疹の発症機序に脳中・皮膚オピオイドの関与も考えられている。これまでの研究で、μオピオイドが痒み惹起、κオピオイドが痒み抑制と考えられているが、我々の研究結果も同様の結果であった。さらに私たちは、脳中のμ/κ比が痒みと強く相関していることを証明した。次に、フローサイトメトリーを用いて、制御性T細胞、B細胞、NK細胞について検討した。これらの検討の結果、ストレス負荷により脳中のμ/κ比が上昇した。末梢血および脾臓中のNK細胞は減少し、それに伴いNK細胞由来のサイトカイン量も変動した。一方、制御性T細胞のプロファイルについてはストレス負荷前後で明らかな差はみられなかった。 サイトカインとオピオイドとの相互作用については今後の検討課題であるが、この相互作用を解明すること、オピオイド、NK細胞を制御することは痒みを抑制し、湿疹の改善に繋げるなど新たな治療方法に結びつく可能性が示唆された。
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