研究課題/領域番号 |
23590710
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐藤 純 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (00235350)
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キーワード | 疼痛 / 気象 / 自律神経 |
研究概要 |
動物実験: (1) 坐骨神経慢性絞扼(CCI)モデル及び脊髄神経結紮(SNL)モデルの2種類の慢性痛モデルラットを人工寒冷環境(24℃→14℃)に曝露し、血中ノルアドレナリン(NA)濃度をHPLCによって測定することで交感神経活動の変化を調べた。また連続強制水泳により作製した抑うつモデルラットに対しても低温曝露を行い,同様にNA濃度変化を測定した。その結果,健常動物では低温曝露中NA上昇が見られたのに対し、CCIモデルではNAが健常ラットより大きく上昇し、SNLモデルではほとんど変化しなかった。また,抑うつモデルでは低温曝露時のNA上昇が鈍化していた。以上から慢性痛が気温低下で増悪するメカニズムには自律神経が関与する場合と別のメカニズムが関与する場合があると考えられる。またうつ病の悪化には交感神経の反応性の減弱が関与していることが示唆される。 (2) 健常ラットとある特定のTRPVファミリーKOマウスに低気圧曝露を行い,前庭神経核細胞に発現する神経活動マーカー(c-fos)を観察した。健常では低気圧曝露によってc-fos発現が観察されたが、KOマウスでは見られなかった.気圧検出機構には特定のTRPVチャネルが関与する可能性を示した。 臨床実験: (1) 天気依存型の慢性痛患者を微少な気圧変化に曝露した。低気圧曝露により疼痛症状が悪化し,自律神経系の反応パターンに健常者との違いが見られた。慢性痛患者の気圧変化に対する自律神経系の反応性が健康人と異なっていることが、天気依存型の病態形成に重要な役割を担っていることが示唆された。また,高気圧曝露が症状を改善することを症例数を増やして確認した. (2)天気痛患者では内耳の気圧変化に対する感受性が健常者と異なるかについて検討した.内耳を電気刺激した際におこる心拍数変化と眩暈出現のタイミングについて解析を複数の症例で行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、内耳の気圧検出機構を探るためにTRPV-KOマウスを用いた低気圧曝露実験を行い,健康動物では全例に観察される心拍数の上昇が,特定のTRPVファミリーKOマウスでは特異的に消失することを見つけた.そこで,本年度はこの研究結果を踏まえ,前庭神経核ニューロンの神経活動標識(c-fos)の発現を観察した.当初の予想通り,健康動物では低気圧曝露により発現が明らかに増強したが,特定のTRPVファミリーKOマウスでは特異的に発現がみられない(すなわち前庭神経細胞は興奮しない)ことを見つけた.この結果は,内耳に特異的に発現する特定のTRPVファミリーチャネルが気圧検出に重要な役割を担っていることを表しており,大変興味のある成果である.次年度は実験動物数を増やし、この検証実験を終了することを目標とする。臨床実験では、低気圧曝露の病態悪化効果はほぼ確定する事が出来たので、今後は高気圧曝露の慢性痛症状などに対する改善効果について集中して実験を行ってゆく。 本計画で、本年度行う計画であった臨床研究、動物実験ともに順調に行われ、予想通り結果を得ている。特に動物実験では,内耳の気圧検出機構にTRPVチャネルが重要な役割を担っていることが明らかになったことは、当初の予想通りではあるが大変画期的な成果であり、来年度の実験成果が大いに期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
臨床実験: 天気依存型の慢性痛患者の症状等が低気圧曝露で増強するか (1) 天気依存型の慢性痛患者を微少な気圧変化に曝露する.(2) 低気圧曝露により疼痛症状が増強し,自律神経系が反応することを確認する.(3) 自律神経系の反応性を解析し,天気非依存型の慢性痛患者,あるいは健康人との反応性の違いを調べる.天気依存型の慢性痛患者は自律神経系がより敏感に反応するのではないかという仮説に基づく.(4) 内耳刺激装置で内耳前庭を刺激したときの心拍数変化の解析から,前庭の気圧感受性が天気依存型の慢性痛患者と健康人で異なるかどうか調べる.(5) 内耳への適切な刺激が低気圧曝露でおこる慢性痛の増強を抑えることができるかその改善効果を確認する. 動物実験: 気圧検出機構にかかわるTRPVチャネルの同定 (1) ある特定のTRPVファミリー KOマウスでは低気圧曝露による前庭神経核のc-fos蛋白の発現が消失するか,来年度はより感度の高いDAB染色で調べる.症例数を増やし,健常動物との差異を確認する.(2) ある特定のTRPVファミリー KOマウスと健常マウスの低気圧曝露による心拍数の変化の違いを調べる.(3) 低気圧曝露がラットの交感神経系を興奮させることは分かったので,もう一つのストレスホルモン系である副腎皮質ホルモン,TSHホルモン分泌を増加させるかどうかをELISA法で確認する.
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次年度の研究費の使用計画 |
動物実験: (1) 昨年までは譲渡を受けたTRPVノックアウトマウスを用いて実験を行ったので、本格的な実験系を組むため、研究者自身でTRPV-KOマウスを繁殖し、実験用のラインを確立するために研究費を使用してゆく。(2) マウスの前庭神経核ニューロンに発現するc-fos蛋白のDAB染色に用いる,一次抗体,二次抗体の費用にあてる.(3) 副腎皮質ホルモンとTSHの測定実験にはELISAを利用する予定である.その検出キット、薬品などの消耗品費に使用する。また、動物の購入費、飼育料にあてる。 臨床実験: (1) 臨床実験には被験者の謝金、各種測定用の電極、使い捨てセンサーなどの消耗品に費用があてられる。
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