研究課題/領域番号 |
23590720
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
田辺 光男 北里大学, 薬学部, 教授 (20360026)
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 下行性疼痛抑制機構 / シナプス伝達 / C-線維誘発性フィールド電位 / 脊髄スライス / グリシントランスポーター / オキシトシン / ミルナシプラン |
研究概要 |
1.オキシトシン鎮痛効果の脊髄における作用機序の解明を目的に、麻酔下ラットの脊髄後角から記録するC-線維誘発性フィールド電位とそのLTPに対するオキシトシンあるいはそのアゴニストの作用を調べた。その結果、オキシトシン受容体活性化がLTPを抑制すること、また、またGABA神経活性化が関与することを明らかにした。 2.上記1と同じC-線維誘発性フィールド電位を指標に、SNRIのミルナシプランが正常ラットではbasalのC-線維誘発性フィールド電位には影響せずにそのLTPに対して抑制効果を示し、また、神経障害後のラットではbasalのC-線維誘発性フィールド電位を抑制したことを既に報告した。投稿したBritish Journal of Pharmacology誌から指摘された追加実験を行い、ミルナシプランによるLTP抑制後(投与120分後)にヨヒンビンを投与してもLTPが抑制状態から回復したことから、ミルナシプランによるモノアミン取り込み阻害作用が持続的に継続することがLTP抑制維持をもたらす事を示し、アクセプされ掲載された。 3.グリシントランスポーター(GlyT)阻害薬は脊髄に作用して鎮痛作用を引き起こすことは既に明らかになっている。今回、脊髄後角におけるグリシン性シナプス伝達に及ぼす作用を検討する目的で、成熟マウス脊髄スライス標本の後角ニューロンからグリシン性IPSCsおよびmIPSCsを記録し、GlyT1阻害薬NFPSやGlyT2阻害薬ALX-1393を適用した。NFPSはIPSCsの振幅を変化させずにその電流減衰の時定数を増加させた。また、mIPSCsに対して振幅を変化させずに頻度を増加させ電流減衰の時定数を増加させた。ALX-1393はIPSCsの振幅を減少させる傾向を示し、mIPSCsの頻度増強作用を示した。ALX-1393の作用については継続検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.オキシトシンが中枢性感作のシナプス機序に関係する脊髄後角LTPを抑制することを示し、また、その抑制機序を示唆することができた。本結果は、オキシトシンの鎮痛作用をシナプス伝達レベルで支持し、慢性疼痛に対する新規治療薬開発に向けての新たな戦略を提供すると考えられる。C-線維誘発性フィールド電位を指標にした機序解明において目的はほぼ達成できたと確信している。早急に投稿作業に移りたい。 2.ミルナシプランの慢性疼痛緩解作用をシナプスレベルで明らかにしたことを論文掲載により情報発信できたと考えている。 3.疼痛シグナル処理に関わる脊髄後角においてグリシン取り込み阻害によりグリシン性シナプス伝達が受ける影響は詳細には検討されていない。グリシン性IPSCsの電流減衰過程が影響を受けたり、mIPSCsの頻度が増加することは興味深い知見である。GlyT2阻害による影響についてはまだ検討中でまだ結論を出すには早い段階である。 4. 昨年度までに報告したSSRIのフルボキサミンの成熟マウス脊髄におけるシナプス伝達に対する作用については、Neuropharmacology誌に投稿し、現在リバイス中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.現在までの達成度の項目でも述べたように、本研究課題で予定した研究は概ね順調に推移したが、グリシン取り込み阻害がグリシン性シナプス伝達に及ぼす影響については研究遂行中であり継続課題としたい。 2.麻酔下ラットを用いて脊髄後角から記録するC-線維誘発性フィールド電位とそのLTPを指標にした研究を展開してきたが、成熟マウスの後根付きスライス標本が作製可能であるため、in vitroでのフィールド電位とそのLTP記録が可能であるかどうかの基礎検討を行い、麻酔下ラットのin vivo標本の代替法になりうるかどうかの検討を開始したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.パッチクランプ法を用いた電気生理学研究におけるシナプス電流誘発には、刺激電極の保持やアプローチに用いるマニピュレーターが必須である。現在使用しているマニピュレーターは大型でチャンバー付近の限られたスペースでの使用には不便な状況である。そこで、本年度はマニピュレーターを更新するために小型のものを購入する。 2.スライス標本作製のための動物、試薬購入などにも研究費を使用する。
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