グリシントランスポーター(GlyT)阻害薬が脊髄に作用して鎮痛効果を示すことを我々をはじめ国内外の研究者が報告している。我々は2011年度に成熟マウスの脊髄スライス標本を用い、whole-cell記録した後角ニューロンにおいて、近傍組織電気刺激によりグリシン性の抑制性シナプス後電流(IPSCs)を誘発あるいは微小シナプス後電流(mIPSCs)を観察し、GlyT1阻害薬のNFPSやGlyT2阻害薬のALX-1393を10分間適用した影響を検討している。その際、記録電極内液にCsClを主とする溶液を用いた条件下でかつ保持電位が-70 mVにおいて、サブタイプに関わらずGlyT阻害薬は持続的内向き電流を引き起こすと共にmIPSCsの頻度を増加させたが、10分間の適用に引き続く10分以上のwash out期間もこれら応答を持続して引き起こし、個々の細胞でデータ解析に用いる時間部分に統一性が取れなかった。そこで、2013年度は阻害薬適用を20分間として再実験し、データ解析を適用終了前に統一した。 NFPS (100 nM)及びALX-1393 (3 microM)は、IPSCsの振幅に影響せずその減衰(一次指数関数で近似して時定数を算出した)を有意に延長させた(共にn=5)。NFPSはmIPSCsの振幅を有意に減少させ、頻度と減衰の時定数を増加させる傾向を示した(n=6)。それに対し、ALX-1393はmIPSCsの振幅を減少させる傾向を示し、頻度を有意に増加させたが、減衰の時定数には大きな変化を及ぼさなかった(n=4、例数追加予定)。GlyT2は抑制性グリシン神経伝達の維持に必須であると報告されているが、20分間適用したALX-1393は今回0.1 Hzで誘発したIPSCsの振幅に対して大きな影響を及ぼさなかったことから、誘発頻度を増加させた検討の必要性があると考えている。
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