研究概要 |
副交感神経緊張型病態モデルとして知られる繰り返し寒冷(SART)ストレス負荷時の痛み閾値の低下、すなわち痛覚過敏の末梢性の感作機序を分子生物学的側面から明らかにすることを目的とした。動物としては、交感神経緊張型の病態モデル動物とされている高血圧自然発症ラット(SHR)の亜系であるArteriolipidosis-prone (AL)ラットを用い、SARTストレス終了後の痛覚過敏を観察するとともに、痛み受容細胞(脊髄後根神経節細胞)において発現が変化する遺伝子をcDNAアレイ法により検索した。発現増加した遺伝子は381種、発現減少した遺伝子は314種であった。その中で痛み関連遺伝子に注目したところ、以下の6種の痛み関連遺伝子の発現増加あるいは発現減少が観察された。 発現増加:St8sia1, Fyn, Grin2b, Map2k1 発現減少:Npy, Itpr1 ALラットは、高脂肪食によりアテローム性動脈硬化を容易に発症することが知られている。そこで、10日間高脂肪食を摂取させたところ、有意な痛覚過敏が認められた(p<0.01, n=6)。このとき痛み受容細胞において、発現が変化した遺伝子をcDNA サブトラクション法によって検索した。発現の減少が認められた遺伝子種は検出されず、MSS4とフェリチン重鎖の発現増加が認められた。この発現増加は、RT-PCRでも確認することができた(p<0.01, n=6)。MSS4とフェリチンは、現時点では、痛み関連遺伝子に分類されていないが、両者が痛覚過敏に関わる可能性が示唆された。
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