研究概要 |
副交感神経緊張型病態モデルとして知られる繰り返し寒冷ストレス(RCS)負荷時の痛覚閾値の低下、すなわち痛覚過敏の末梢性感作機序を分子生物学的側面から明らかにすることを目的とした。 交感神経緊張型の病態モデル動物とされている高血圧自然発症ラット(SHR)の亜系であるSHRSP5/DmcrラットにRCSを負荷した。RCS負荷は、飼育温度を昼間は 30分ごとに室温(24℃)と低温(4℃)に変化させ、夜間は低温にするというサイクルを2日間繰り返し、夜間の低温飼育を2日間追加するという条件で実施した。足上げ逃避反応を指標としてvon Frey hairによって足底部皮膚を機械的に刺激し、経時的に痛覚閾値を測定した。同時に、ラット非観血血圧測定装置を用いて血圧を測定した。RCS負荷により有意な痛覚過敏と血圧低下が観察された。実験終了後に痛み受容細胞(脊髄後根神経節細胞)を採取し、total RNAを抽出し、cDNAサブトラクション法(23年度)およびcDNAアレイ法(24年度)により痛み関連遺伝子の発現変化を検索した。その結果、計10種の痛み関連遺伝子の発現変化を検出した。26年度は、これらの痛み関連遺伝子の発現変化が有意なものかどうかをRT-PCRにより確認した(n=12)。その結果、Tac1, S100a10, Ctsb, Fstl1, Fyn, St8sia1において有意な発現増加が、Npy, Itpr1において有意な発現減少が認められた。 RCSによる痛覚過敏には、既知の下行性抑制系の抑制という機序の他に、末梢性機序も存在することが明らかになった。有意な発現変化が認められた8種の痛み関連遺伝子のうち少なくともいくつかはこの機序に関与するものと考えられる。
|