研究課題/領域番号 |
23590731
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
本多 健治 福岡大学, 薬学部, 助教 (60140761)
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研究分担者 |
斎藤 亮 福岡大学, 薬学部, 講師 (80122696)
高野 行夫 福岡大学, 薬学部, 教授 (50113246)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 中枢性疼痛 / グリア細胞 / 視床 / 帯状回皮質 / サイトカイン / ケモカイン / コリン作動性神経 / ムスカリン受容体 |
研究概要 |
本年度は,脳出血モデルとしてラットを用い,(1)血液(尾静脈から採取)を直接脳内に注入する(2)コラゲナーゼを直接脳内に注入する,この2つの方法を用い視床内あるいは視床周辺出血による視床痛を反映する疼痛動物モデルを樹立することに焦点を当てた。その結果,コラゲナーゼの視床内投与は投与部位での脳出血が認められ,すべての動物ではないが一部の動物で仮性疼痛行動(機械刺激に対して逃げる・攻撃,鳴く)が観察された。また,採血した尾静脈血を視床内投与したモデルにおいても,一部の動物で仮性疼痛行動が観察された。 一方,抗がん剤パクリタクセルを投与した末梢性神経障害モデルにおいては,疼痛発現と維持に脊髄アストログリア細胞が関与し,その活性阻害剤は疼痛を緩和することを見出した(85回日本薬理学会年会発表)。また,坐骨神経部分絞扼による神経障害モデルにおいて神経障害後に発現する炎症性ケモカインCCL-1の増加とミクログリア細胞の過剰な活性化・増殖が,疼痛の発現に深く関与することを明らかにした(Mol. Pain 投稿中)。これらの結果は,中枢性神経障害による疼痛発現の仕組みを解明するうえで重要な情報を提供する。また,私達は末梢神経障害疼痛モデルを用いて大脳皮質帯状回内のムスカリンM1受容体がGABA作動性神経を介し末梢神経障害痛を抑制することを明らかにした(Brain Res 投稿中,8th IBRO World Congress Neuroscience発表)。この結果は,帯状回は痛みの情動的側面に関与することが推測されることから帯状回に投射するコリン作動性神経の役割の解明は脳内の疼痛発現と疼痛抑制の仕組みに新たな知見を与えることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の目的である脳出血モデルとしてラットを用い,(1)血液(尾静脈から採取)を直接脳内に注入する方法,(2)コラゲナーゼを直接脳内に注入する,この2つの方法を用い視床内あるいは視床周辺出血による視床痛を反映する動物モデルを樹立することを試みた。その結果,視床周辺での脳出血や血液痕が確認された一部の動物では明らかな仮性疼痛行動(機械刺激に対して激しく逃げる・攻撃,鳴く)が観察されたが,疼痛評価が不明慮な動物モデルも認められた。その原因の1つに,出血の位置や血液投与部位のバラツキが考えられた。従って本研究課題を進めるためには、感覚系中継核である視床の後外側腹側核周辺にコラゲナーゼと血液を確実に投与する技術の獲得が急務であることが確認された。一方,視床疼痛モデルの疼痛の強さは疼痛閾値で評価するより侵害的刺激に対する仮性疼痛行動(鳴く,逃げる,舐める,攻撃)を点数化することで評価する方が有用であることが判明しことは評価できた。また、末梢神経障害モデル動物を用いた実験では、痛みの発現と維持に関して脊髄のケモカインとグリア細胞(特にミクログリアとアストログリア)の役割を解明することが順調に進められた。特に,痛みの維持にアストログリア細胞が関与することを明らかにできたことは評価できる。これらの末梢神経障害モデル動物で得られた実験結果は,今後の本研究課題を推進していく上で重要な方向性を与えた。 また,実験技術の習得に関しては,神経障害に伴うグリア細胞の変化を抗体を用いた免疫組織化学的手法による形態学的変化と発現量で調べる手法を確立することができた。さらに,神経組織中のサイトカイン・ケモカイン量の動態をProteome Profiler Rat Cytokine ArrayキットとWestern blot法で調べる手法を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
【1】疼痛モデル: 引き続きラットを用い脳出血モデルによる疼痛モデルを作成する。新たに,右視床にカイニン酸を注入して視床を破壊した中枢疼痛モデルを加える。【2】疼痛発現とグリア細胞および炎症細胞: 神経損傷時には,炎症細胞とグリア細胞の反応が亢進することが知られている。脳組織の神経障害を病理学組織学的に評価するために脳組織切片を作製して,神経細胞,炎症細胞とグリア細胞の形態変化を検討する。また,炎症細胞とグリア細胞の反応性は神経障害痛発現との関連性が考えられるので,炎症細胞とグリア細胞の形態学的変化を調べることは,脳出血による視床痛発症の仕組みを考える上で大きな意味がある。炎症細胞(マクロファージ,リンパ球),グリア細胞(ミクログリアおよびアストログリア)の反応は,それぞれの抗体を用いた免疫組織化学的手法による形態学的変化と発現量から調べる。【3】疼痛発現とケモカイン: 私達は脳出血による炎症反応で産生したケモカインが中枢性疼痛の発症とグリア細胞活性に深く関与していると考えている。そこで,視床痛モデル動物を用い脳内のサイトカイン・ケモカイン量の動態をProteome Profiler Rat Cytokine Arrayキット とWestern blot法で調べ,疼痛発症に関与するサイトカイン・ケモカインを特定する。特定したサイトカイン・ケモカインの中和抗体を視床痛モデル動物の前頭部帯状回,視床,中脳中心灰白質に局所投与し,疼痛発現に対する効果を疼痛行動実験の評価法で検証する。また,正常動物にはサイトカイン・ケモカインをモデル動物と同じ脳内の局所部位に投与して疼痛発現を調べ証拠を加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の多くは,消耗費に使用する。一部は,成果の論文作成と学会発表のための費用を計上する。【消耗費】モデル動物の作製や機能的実験は主にラットを用いる。そのために多くの動物が必要で,実験動物代が消耗費のなかでかなりの割合を占める。薬物は脳内の局所に投与する。そのために精巧なマイクロシリンジが必要で,器具代に予算を計上している。形態学的手法はすでに確立しているが,新たに神経,グリア細胞,サイトカイン・ケモカインを同定するために,抗体が必要であり,試薬代に予算を計上している。【論文作成・旅費】成果を論文発表するために,論文校正料と投稿料を計上する。また,研究成果の発表の目的で国内旅費を計上する。
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