研究課題
本年度は、まず神経障害疼痛における脳内鎮痛系について検討した。神経障害疼痛はモルヒネ鎮痛に対し抵抗性を持つことが知られている。そこで、モルヒネの抗侵害効果の減弱の仕組みについ脳内モルヒネ受容体に注目し、糖尿病性神経障害疼痛モデルマウスを用い検討した。その結果、モルヒネによる抗侵害作用は非糖尿群に比べ糖尿病群で有意に減弱した。さらに、脳内PAG周囲のオピオイドμ受容体の発現量は、糖尿群で非糖尿群に比べて糖尿病マウスで約44%の減少が認められた。これらの結果から、糖尿病性神経障害疼痛におけるモルヒネ抗侵害効果の減弱は、PAG周囲のオピオイドμ受容体の減少による下行性疼痛抑制系の減弱が原因である可能性が示唆された。一方、末梢性神経障害疼痛の発現には末梢神経のミトコンドリア障害の関与が示唆されている。しかし、その詳細は明らかではない。私達は、抗がん剤パクリタキセ(PTX)の処置が、痛覚過敏発現に伴って坐骨神経組織のシュワン細胞のミトコンドリアの異形化・空洞化を引き起こすことを明らかにした。さらに、PTXによる末梢神経障害疼痛はミトコンドリア機能改善薬acetyl-L-carnitineの処置で抑制された。一方、PTX投与による運動機能障害は観察されなかった。これらの結果は、シュワン細胞のミトコンドリアの機能障害が、末梢神経障害疼痛の発現に深く関与していることを示唆する。本年度の研究結果は、神経障害疼痛発症には脳内オピオイドμ受容体の減少による脳から脊髄に投射する下行性疼痛抑制系の低下と末梢神経組織のシュワン細胞ミトコンドリアの機能不全が、深く関与することを明らかにした。また、ミトコンドリア機能改善薬の投与が神経障害疼痛の緩和に有効であることをも明らかにした。以上の研究結果は、神経障害疼痛の仕組みの解明と治療法の確立に寄与すると考えられる。
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Cell Death & Disease
巻: 4: e679; ページ: 1038/2013.198
doi:10.1038/cddis.198 (2013)