研究課題/領域番号 |
23590733
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
色川 俊也 東北大学, 環境・安全推進センター, 助教 (70375179)
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研究分担者 |
黒澤 一 東北大学, 環境・安全推進センター, 教授 (60333788)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 化学物質過敏症 / 気道分泌 |
研究概要 |
低容量の有害環境物質暴露で惹起される化学物質過敏症の気道において発生する反応の病態解明の一助となる事を目的に、気道上皮下に分布する侵害刺激感受性受容体であるTRPV-1(transient receptor potential vanilloid 1)の活性化が、気道の生体防御機能である、気道粘膜下腺からの粘液・漿液分泌に及ぼす影響について検討した。ブタ気管を用いて可視的な気道分泌の定量評価を行った。ブタ気管の漿膜側をクレブスリンゲル液に浸し、粘膜側表面をO2/Co2混合ガスで乾かした後、ミネラルオイルをマウントし、ミネラルオイル中に粘膜表面の気道粘膜下腺開口部から分泌された球形の分泌液の体積を計測し分泌腺単位毎の分泌量を計測した。(1)これまでの実験系では、一度に多数の分泌液球を組織直上に設置したデジタルカメラを用いて撮影し、その体積を計算していたが、更に解析度の高いデジタル写真を得る目的で、デジタルカメラを実態顕微鏡と直接接続にする、撮影写真データをダウンロードしたPCの画像処理機能を高めるなど装置の改良を加えた。(2)本実験系での基礎データとなる、正常ブタ気道における無刺激状態での気道分泌量の定量、TRPV-1 agonistであるcapsaicinの粘膜側投与刺激によるTRPV-1刺激状態での気道分泌への影響を可視的に測定・評価した。無刺激状態では、ブタ組織を実験系に設置後20分間放置し、準備段階での物理的刺激を除いた状態で計測を開始した。多くの実験では、0.02~0.03(nl/min/gland)程度のわずかな基礎分泌が認められた。また、capsaicinの粘膜側投与刺激によるTRPV-1刺激模倣状態では、分泌が亢進している傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災後の実験室設備の再興立ち上げに時間を要したことや、一時、ブタの気道入手が困難になったため、実験が中断したこと、気道分泌の可視的評価を行う実験装置に関してより解析度の可視的データ入所のため実験装置に改良を加えたことで、予備実験に時間を要した事が原因である。新しく改良した実験系で本年度の予定では、(1)無刺激(定常)状態でのブタ気道粘膜下腺からの基礎分泌の測定、(2)粘膜側へのcapsaicin投与によるTRPV-1刺激(化学物質による粘膜刺激状態を模倣)での分泌の測定、(3)TRPV-1刺激により気道に分布するC繊維末端から分泌される炎症性神経伝達物質であるSubstancePの漿膜側投与による化学物質過敏症模倣状態での分泌の定量、(4)(1)~(3)の実験で回収した気道分泌液の質的・定量的分析としてELISA法によるライソザイムやラクトフェリンなどの抗炎症性物質や、IL-6等抗炎症性サイトカインの定量を行う事を予定したが、実際には、(1)、と(2)の数例のみしか実施できなかった。平成23年度は予備実験的なデータの収集に留まり予定した学会などでのデータ公表するまでの実験結果が十分に得られなかったため予定よりやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、実験システムも安定した状態と成り、順調に結果をえられるものと見込んでいる。平成23年度に引き続き侵害受容体TRPV-1活性が気道分泌に及ぼす影響を検討すると同時に化学物質過敏症を模倣できる実験系の作成を試みる事を目標とする。 本年度の予備実験、基礎実験を通じて傾向をとらえている(1)侵害受容体TRPV-1刺激状態( agonistのcapsaicin粘膜側投与)による気道粘膜下腺分泌への効果を可視下に定量的に評価すると同時に粘膜側に投与するcapsaicinの濃度(つまり化学物質による刺激の強さ)が気道分泌反応に及ぼす影響を確認することも目的として実験を進めていく予定である。更に、(2)TRPV-1刺激により分泌される神経ペプチドSubstance Pの気道粘膜側への前投与後の気道分泌の定量を行い、MCS患者の気道における分泌の状態を模倣/検討し(1)の結果との比較する。(3)上記(1)、(2)の条件下での気道分泌液を回収し、その中に含まれる抗炎症性物質(ライソザイム、ラクトフェリン)や抗炎症性サイトカイン(IL-6など)の存在をELAISA法を用いて確認する。(4)化学物質過敏症を模倣できる暴露実験系を作成する。(5)(4)により化学物質に曝露した気道(ブタ気道)を用い、気道粘膜下線分泌の代表的agonistであるフォルスコリンやカルバコールに対する反応を正常気道の分泌反応と比較することによって、化学物質過敏症における気道分泌の機序を解明する。(6)上記実験で回収された気道分泌液の回収をし、(3)と同様に抗炎症性物質(ライソザイム、ラクトフェリン)や抗炎症性サイトカイン(IL-6など)の定量・分析を行う。などの実験を順次、遂行してゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、現在進行中の実験で消耗する95%酸素/5%二酸化炭素混合ガスや、試薬(クレブスリンゲル液、capsaicinやsubstancePなどのTRPV-1agonist、気道分泌の実験で用いる基礎的な薬剤(=カルバコール、フォルスコリン)や気道粘膜下腺分泌機序に関与するantagonist類)の購入、ガラス機器類の補填、使用実験系の補修・改良のための費用として使用することを予定している。また、新たに開始する採取した気道分泌液のライソザイムやラクトフェリンなどの質的分析・定量をするためのELISAキットの購入のほかに、ELISA法実施のために必要な基本的実験設備の整備(オートクレーブ装置など)のために使用する予定である。ブタの気管入手のために仙台市屠殺場への往復についての交通費、気管購入の費用、実験全般をサポートする援助者への謝金も計上している。また、得られたデータの集積・解析のためにデータ蓄積用のハードディスクの購入や、より利便性の高い計測ソフトや解析ソフトも購入も予定している。更に、化学物質過敏症や気道の分泌研究分野に関する最新の知見の収集と自身の得られたデータ公表のため、日本呼吸器学会、日本アレルギー学会、米国胸部疾患学会や米国産業衛生学会などへの出席や、国内で化学物質過敏症患者の診療を積極的に行っている施設の訪問なども検討しておりこれら参加の為の旅費も予算として計上している。
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