研究課題/領域番号 |
23590733
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
色川 俊也 東北大学, 環境・安全推進センター, 助教 (70375179)
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研究分担者 |
黒澤 一 東北大学, 環境・安全推進センター, 教授 (60333788)
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キーワード | 化学物質過敏症 / TRPV-1 / 気道分泌 / 気道粘膜防御機構 |
研究概要 |
化学物質過敏症において気道で発生する生体反応の病態を解明することを目的として、気道上皮粘膜下に分布する侵害刺激感受性受容体であるTRPV-1(transient receptor potential vanilloid 1)の活性化が、気道の生体防御機能である、気道粘膜下腺からの粘液・漿液分泌に及ぼす影響について検討した。人と解剖学的に分泌腺の分布が類似するブタ気管を用いて、可視的な気道分泌液の定量評価を行った。 これまで他施設で行われた同様の実験では、一度に多数の分泌液の球形dropを組織直上に設置したデジタルカメラを用いて撮影し、drponの体積を計算していたが、我々はデジタルカメラを実態顕微鏡と直接接続にする方式に専用の計測ソフトを導入し更に解析度の高いデータ(デジタル写真)を得るなどの改良を加えた。 昨年度より本実験系での基礎データとなる、正常ブタ気道における無刺激状態での気道分泌量の定量、つまり0.02~0.03(nl/min/gland)程度のわずかな基礎分泌、細胞内cAMP濃度を上昇させ気道分泌亢進させるagonistであるforskolin10μMの漿膜側投与による分泌亢進状態0.8~1.2(nl/min/gland),細胞内Ca2+濃度を上昇させ分泌を亢進させるagonistであるCarbachol 1μMの漿膜側投与による分泌亢進状態8.7~10.3(nl/min/gland),TRPV-1 agonistであるcapsaicinの粘膜側投与刺激による気道分泌への影響0.4~0.6(nl/min/gland),を可視的に測定・評価した。これまでの結果からは、TRPV-1刺激により軽度ではあるが分泌が亢進している傾向が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、平成23年度にブタ気道を用いた侵害受容体(TRPV-1)刺激による気道分泌への影響を可視的評価法により実施し、平成24年度は化学物質過敏症模倣モデルを用いた実験に着手する予定であった。しかし、解析度が高い写真で、正確な計測ができるソフトを導入する目的で実験装置に改良を加えた事などにより、平成23年度は予測的なデータは得られたが、多数のデータを得ることは出来なかった。平成24年度は気道分泌の可視的評価装置の確立により、基礎分泌、cAMP刺激やACh刺激など基本的な分泌刺激反応の他、粘膜側へのcapsaicin(TRPV-1agonist)投与(=化学物質による気道粘膜刺激を模倣)による分泌、炎症性神経伝達物質であるSubstancePの漿膜側投与(=化学物質過敏反応による気道の神経源性炎症反応を模倣)についてのデータも得ることが出来た。しかし、気道組織粘膜上にミネラルオイルをマウントし、その中に分泌される粘液分泌量を定量する本実験系においては、粘膜側に薬剤を投与する際の投与方法(ミネラルオイル中に添加薬品を溶解させる)に技術上の難点があり、当初の予定より進行が難航した。又、当初の計画では、上記の実験にて産出された気道分泌液を回収し、ELISA法による質的な分析(IL-6やLactoferrinのような抗炎症性物質を定量すること)を予定していたが、1回の実験で回収できるサンプルが非常に微量(1~2μl程度)であるため、計画の変更を余儀なくされている。しかし、その一方で、化学物質過敏症と診断されている患者様の呼気NOを測定機器NIOXMINOにより実際に測定する機会(症状安定期で特に呼気NOの上昇は無かった)があり、又、化学物質過敏症状出現時に口腔や気道の乾燥を実感するという当初の予想に反するが計画を再考する有意義な情報を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は本年度まで実施してきた、TRPV-1刺激に関する可視的な気道分泌現象の定量を続ける一方で、分泌液の質的解析を目的に気道分泌液サンプルをより多く回収できるような試みを検討している。大型の組織片を用いて、1回の実験でより多くの分泌液回収を行う事により、分泌液中に含まれる粘膜免疫担当物質や粘稠性の質的な評価に関する検討を進めたいと考えている。 平成24年度に微量なサンプル(5μlのサンプルから計測可能)の浸透圧を計測する浸透圧計(Vapro5600, WESCOR)を購入した。これにより、TRPV-1刺激により分泌される気道分泌物が無刺激状態や分泌刺激促進物質投与時にTRPV-1無刺激の通常分泌に比べて粘稠度の変化を生じているのか(つまり、化学物質過敏症の患者様が症状出現時に乾燥しているという事が、気道分泌が低下しているのか、又は気道分泌液の粘液成分が増大し粘稠度が上昇しているのか、ということを明らかにする)を検証する事を考えている。また、当初の計画にもある、有機溶剤(アセトンやホルムアルデヒド)に実際に粘膜側をばく露した気管を用いて化学物質過敏症疑似モデル気管とし、これまでに得られた知見との比較から化学物質過敏症における気道粘液分泌現象の機序の解明、生体の粘膜防御反応機序についての解明を進める予定である。又、気道分泌液の質的評価に関しては、ELISA法に替わる手法として少量のサンプルで含有される抗体(IgM)などを測定出来る測定器材がある事も把握しており、導入可能な場合はTRPV-1刺激状態と非刺激状態で気道粘膜免疫の中心的役割を担っているIgMを定量評価することにより、粘膜免疫能に及ぼすTRPV-1活性の影響を評価することを検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、平成24年度に予定していた海外の国際学会での研究成果発表が出来なかったこと、実験により回収されるサンプル量が予定より少なかったため、ELIZA法による質的な評価が出来なかったことから生じた未使用額であり、次年度に予定している日本呼吸器学会、日本アレルギー学会、日本産業衛生学会、米国産業衛生学会などに出席し、化学物質過敏症に関する再診の知見を習得すると同時に、得られた研究成果を発表するための経費として、または、ELIZA法に変えて微量サンプル(4μl)の気道分泌液の質的評価法として検討しているタンパク質検出・定量・カイネティクス解析が可能な機器の購入のための経費の一部として平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。 平成25年度は現在進行中の可視的分泌現象の定量実験において消耗する物品(ガラス機器の補充、95%O2+5%CO2ガスの補填、大型の組織片を用いて実験を行うための広いステージ並びに接写で広角撮影可能なデジタルカメラの導入などに使用することを考えている。 気道分泌液の質的検討が順調に進行するならば、研究成果の論文による公表も可能であろうと思われるため、そのための経費も考慮している。
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