研究実績の概要 |
2011年から2013年まで製造業の男性労働者を対象に、基本属性、勤務日の平均睡眠時間などを含む生活習慣、抑うつ尺度(CES-D)、アテネ不眠尺度(AIS)などの自記式質問紙調査を実施した。1年目1,871名、2年目1,929名、3年目2,060名の調査を実施し、データベースを作成した。精神疾患の既往及び治療中の人や睡眠時無呼吸症候群で治療中の人を除外して、60歳以下の日勤者でベースライン(2011年)に抑うつ症状なし(CES-D総得点16点未満)だった840名(平均年齢41.7±11.5歳)について3年間のコホート研究として解析した。 その結果、将来の抑うつ発症に対して最もリスクとなるのは不眠で、抑うつ発症のリスクはベースライン時のAISが1点以上の者全体で3.06倍であった(HR 3.06; 95% CI, 1.23 - 7.61, p < 0.05)。AISの点数別に見ると、AIS総合計が1-3点では有意な差が認められなかったが、4-5点で(HR 5.24; 95% CI 2.04 - 13.46, p < 0.01)であり、6点以上では(Hr 5.94; 95% CI 2.19 - 16.10, p < 0.001)で得点が上がるにつれて、ハザード比が上昇した。 労働者において将来の抑うつ発症には不眠が最も関係していた。また不眠の程度が強いほど将来の抑うつ発症のリスクが高いことが示された。この結果は、抑うつ予防対策として、労働者の不眠症状に注意をはらい、予めAISのような調査を実施し、不眠の程度や内容を把握しておくことが大切ではないかと考えられた。そして、抑うつ対策において抑うつ自体を問題視すると敷居が高いが、本研究結果が示唆するように、不眠に注目した対策をとることが抑うつ対策の入り口としても有効ではないかと考えられた。
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