研究課題/領域番号 |
23590740
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
新添 多聞 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30531735)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 短鎖塩素化パラフィン / 大気輸送モデル / 大気中濃度 / 排出量 |
研究概要 |
各種統計に基づいて、日本、韓国、中国における短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)の大気への排出の強度と分布の推定を行った。推定した排出量を大気輸送モデルに入力し、東アジアにおける大気中SCCPsのシミュレーションを行った。また、関西4地点および中国瀋陽、撫順において一週間程度の大気サンプリングを行い、大気中SCCPs濃度を測定した。大気中濃度のモデルによる計算値とサンプリングによる実測値を比較することにより、関西における大気中SCCPsの排出起源の推定を行った。国内の排出源が卓越する場合、今回測定した大気中濃度には差が見られるものと期待されたが、測定値には測定地点による顕著な差は見られず、常に3 ng m-3前後の値となった。モデルに日本、韓国、中国からの排出を与えた場合、大気中濃度の計算値は実測値と概ね良く一致し、測定地点による差は出なかった。一方、日本からの排出のみを与えた場合は、実測値より2桁ほど値が小さくなるとともに、測定地点による差が現れた。また、筆者らは2008年の北京において大気中濃度の測定を行っており、今回関西で測定した値よりおよそ2桁大きい値であったが、モデルはこれも概ね再現できていた。さらに、瀋陽、撫順では北京より濃度が小さいことも確認した。POPs候補物質であるSCCPsは日本においては自主規制により大幅な削減が実施された。一方、中国においては近年、塩素化パラフィン全体の生産量が急激に増加しており、食品中のSCCPs含有量が激増していることが確認されている。SCCPsの大気中濃度の測定データは日本ではこれまでほとんど存在しなかったが、本研究により関西地方における特徴が明らかになった。さらに、環境中での長距離移動についての実態もこれまで不明であったが、大気輸送モデルを活用することで、大気による我が国への長距離越境汚染を示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関西4地点、中国2地点での大気中濃度測定、排出量の推定、大気輸送モデルの開発ともに満足のいく結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度における大気中SCCPs濃度の実測値とモデルによる計算値との比較では、中国から日本への大気による長距離輸送を強く示唆する結果となった。そこで平成24年度は、西日本および中国沿岸部を中心に大気試料の採取を行う。また、韓国の研究者から、現地の大気試料の提供を受ける。平成23年度に採取した試料とともに分析を行い、日本、中国、韓国における大気中SCCPs濃度の測定データを蓄積する。さらに組成に関する分析を行い、それぞれの国における組成の共通点と違いを明らかにする。従来の知見によれば、大気へのSCCPs排出では金属加工油使用が卓越するはずであった。ところが平成23年度に明らかにした、北京、瀋陽、撫順における大気中濃度の明確な差は、中国においては従来の知見が適用できないことを示唆するものである。そこで大気へのSCCPs排出源に関する更なる検討を行い、大気モデルによる試算を繰り返して計算値との比較を行うことにより、推定排出量の精度の向上を目指す。さらに大気モデルにおいては、SCCPsの成分ごとに大気中での性状の違いを考慮し、組成の再現ができるように改良を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費:71万円協力者への謝金:18万円試料輸送費、分析費、消耗品購入費、機器維持費:37万円
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