研究課題/領域番号 |
23590740
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
新添 多聞 京都大学, 防災研究所, 研究員 (30531735)
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キーワード | 短鎖塩素化パラフィン / 大気輸送モデル / 大気中濃度測定 / 排出量 |
研究概要 |
短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)の汚染源を推定することを目的に、大気輸送モデルを用いたシミュレーションを行った。その際、日本、韓国、中国における大気への排出の強度と分布は統計量を基に推定するとともに、揮発の温度依存性を考慮した。また、京都市左京区において大気のサンプリングを継続的に実施した。さらに6月29日から7月3日の5日間、中国上海市において大気の24時間サンプリングを実施した。採取した試料により得られた大気中SCCPs濃度の実測値とシミュレーション結果を比較することにより汚染源に関する考察を行った。 日本、韓国、中国からのSCCPs年間排出量はそれぞれ320、100、12000 t/yrとなった。京都市左京区での大気中濃度の測定値は、冬季は10 ng/m3程度であるのに対して、夏季は100 ng/m3を超える日もあり、冬季に低く夏季に高いという明瞭な季節変化が見られた。夏の上海での測定では京都の夏より1桁高く、5 μg/m3という極めて高い値が確認された。モデルでは測定値に見られる日本、韓国、中国の地域による大気中濃度の違い、京都市左京区での大気中濃度の季節変化といった特徴を再現できていた。モデルによる計算結果によれば、夏季においては大気の流れによる中国からのSCCPsの流入を強く示唆された。その一方、従来の知見によれば排出源が存在しないと考えられてきた現在の日本国内にも排出源が存在し、その規模は中国の400分の1ながら、都市部においては大気中濃度の増大する夏季においても卓越することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京都市左京区および中国上海市での大気中濃度測定、排出量の推定、大気輸送モデルの開発ともに満足のいく結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの大気中SCCPs濃度の実測値とモデルによる計算値との比較では、夏季においては中国から日本への大気による長距離輸送が卓越し、冬季においては日本国内における排出が卓越するという季節的特徴を強く示唆する結果となった。そこで平成25年度は、日本海側を中心に大気試料の採取を行う。また、韓国の研究者から、現地の大気試料の提供を受ける。平成23、24年度に採取した試料とともに分析を行い、日本、中国、韓国における大気中SCCPs濃度の測定データを蓄積する。さらに組成に関する分析を行い、それぞれの国における組成の共通点と違いを明らかにする。 従来の知見によれば、大気へのSCCPs排出では金属加工油使用が卓越し、SCCPs含有製品からの放出は無視できるはずであった。ところが本研究によって、北京、瀋陽、撫順における大気中濃度の明確な差と日本国内における排出源の存在が明らかとなり、従来の知見が適用できないことが示唆された。そこで大気へのSCCPs排出源に関する更なる検討を行い、大気モデルによる試算を繰り返して計算値との比較を行うことにより、推定排出量の精度の向上を目指す。さらに大気モデルにおいては、SCCPsの成分ごとに大気中での性状の違いを考慮し、組成の再現ができるように改良を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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