研究概要 |
大気中短鎖塩素化パラフィンの大気輸送モデルを用いた拡散シミュレーションを行い、測定データとの比較により大気への放出量の推定を行った。大気輸送モデルとして、非静力学メソスケール気象予報モデル統合型のWRF/Chemを用いた。計算領域は東アジアを含む南北3600 km、東西4500 km、空間解像度90 kmの領域1と、関西地方を含む450 km四方、空間解像度9 kmの領域2である。領域1を計算結果を領域2の境界値とすることで、東アジアにおける越境輸送と関西における微細な濃度分布を再現できるようにした。まず日本、韓国、中国からの排出量を経済統計等から見積もった。排出の分布は正しいと仮定し、日本、韓国、中国それぞれに一つずつスケールファクターを与えて、排出の強度を調整できるようにした。そのうえで、大気輸送モデルに排出の第一推定値を入力して得られた大気中濃度の計算値と、これまで日本、韓国、中国において採取した大気試料の測定値の組に対してグリーン関数を用いた統計的手法により3つのスケールファクターの最適値を定め、排出量の最適化を行った。 日本、韓国、中国からの大気への年間排出量の最適値はそれぞれ115 t、68 t、33,312 tとなった。排出量の最適値を入力したモデルによる大気中濃度の計算値は、測定値の大きさと季節的変動を概ね再現できていた。中国からの排出量が突出しているが、日本にも明確な排出源が存在することを示唆する結果となった。ただし、日本、韓国、中国からの排出量の最適値は、第一推定値のそれぞれ2221倍、8.5倍、38倍であり、放出源についてのさらなる検討が必要である。
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