研究課題
老化は全身性の軽度な慢性炎症病態(炎症性老化)で、炎症は老化を促進するという考え方が浸透しつつある。炎症性老化のメカニズムを明らかにするため、炎症性マクロファージと抗炎症性マクロファージへの分化制御に関与する分子を検索した。まず、老化と同様に慢性炎症状態である肥満マウスを用いて、炎症反応を制御する分子を検討した。胃から分泌される摂食促進ホルモンとして発見されたghrelinが、マクロファージに発現していることを見いだした。肥満マウス腹腔マクロファージではghrelin発現量が低下し、運動トレーニングにより回復した。一方、炎症性サイトカインTNFα産生能は肥満マウス腹腔マクロファージで上昇し、運動トレーニングにより低下した。腹腔マクロファージまたはマクロファージ細胞株RAW264細胞の培養系にghrelinを添加すると、リポ多糖刺激によるTNFα産生能は抑制された。さらに、RNAi法によりRAW264細胞のグレリン発現量を低下させると、TNFα産生能は増強された。すなわち、肥満においてはghrelinの発現量が低下することにより慢性炎症状態が誘導され、運動トレーニングはそれを改善する効果があることが示唆された。さらに、C57BL/6マウス8週齢(若年マウス)と12ヶ月齢(老化マウス)から腹腔マクロファージを採取し、マイクロアレイにより遺伝子発現解析を行った。その結果、脂肪組織で発現しインスリン抵抗性を惹起するアディポサイトカインとして同定されたresistinのファミリーであるresistin-like molecule αをマクロファージが発現していて、老化に伴い著しく増加することを見いだし、この分子が老化に伴う慢性炎症が引き起こすインスリン抵抗性に関与していることが推測された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、身体活動量と炎症反応と慢性疾患がどのようにリンクしているかを、マクロファージに焦点をあて分子レベルで明らかにし、アンチエイジングのための効果的な運動処方の確立と運動による炎症制御機構の解明を目的としている。本年度は、研究実施計画で予定していた慢性疾患の炎症状態に対する運動効果の解析を行い、1)胃から分泌される摂食促進ホルモンとして発見されたghrelinがマクロファージに発現していること、2)マクロファージ細胞株を用いてghrelinの過剰発現株とノックダウン株を樹立・解析した結果、M1マクロファージに優位に発現している遺伝子Tnfa、Nos2などの発現を抑制し抗炎症作用を示すこと、3)肥満マウス腹腔マクロファージではグレリン発現量が低下し、運動トレーニングにより回復することを明らかした。さらに、本年度に予定していたマイクロアレイ解析を行い、慢性炎症制御のための新たな標的分子としてresistin-like molecule αを見いだした。加えて、この分子が加齢に伴い増加することを突き止めた。これらの分子が炎症性マクロファージと抗炎症性マクロファージへの分化制御にどのように関与するかについての検討も進行中である。従って、おおむね予定通りに実験は進行していると考える。
resistin-like molecule αが加齢に伴い増加する一方、Toll様受容体2(TLR2)欠損マウスでは増加しないことから、老化に伴う慢性炎症状態の惹起にTLR2の関与が推測されたため、従来から肥満における慢性炎症状態に関与していると考えられているTLR4のリガンドに不応答性のC3H/HeJマウスとその対照となるC3H/HeNマウスを用に加え、TLR2ノックアウトマウスを用いて老化や肥満といった慢性炎症に対するTLR2とresistin-like molecule αの役割を明らかにする。併せて、運動効果との関連を検討する。マウス腹腔細胞からプラスチック付着法でマクロファージを分離し、炎症性マクロファージに優位に発現している遺伝子と抗炎症性マクロファージに優位に発現している遺伝子を定量RT-PCR法で解析し、運動がマウスマクロファージの極性に与える影響を明らかにする。さらに、in vitroで腹腔マクロファージを培養し、ghrelinとresistin-like molecule α添加がマクロファージの炎症性または抗炎症性マクロファージへの分化に与える影響を検討する。マクロファージ細胞株で樹立した標的分子の過剰発現株とノックダウン株を用いて、同様に炎症性または抗炎症性マクロファージへの分化に与える影響を検討する。 各標的分子のプロモーター領域をルシフェラーゼベクターにクローニングし、各細胞株に一過性にトランスフェクトしプロモーター活性を測定する。プロモーター領域に存在する転写因子結合配列に変異を導入し、発現調節に関与する転写因子を特定する。核画分から核タンパク質を抽出し、NF-κB、Fos、Jun、CREB、C/EBP などの転写因子をゲルシフトアッセイにより解析し、標的分子の発現量の変化に附随して変化する転写因子を検索する。
本年度は、研究実施予定どおり慢性炎症モデルとしての食事性肥満に対する運動効果の検討とマイクロアレイ解析を行った。その結果、運動の抗炎症効果におけるghrelinの関与を明らかにした。さらに、マクロファージにresistin-like molecule αの発現していることを見出し、加齢に伴い増加することを突き止めたので、この分子のマクロファージでの役割と老化における慢性炎症との関連を解析することが優先されると考え、他系統マウスを用いた実験を次年度に回したため、1,143,931円の次年度使用額が生じた。この研究費と平成24年度請求額500,000円を合わせた研究費から、実験動物・飼料の購入費として700,000円を使用し、TLR4のリガンドに不応答性のC3H/HeJマウスとその対照となるC3H/HeNマウスを用に加え、TLR2ノックアウトマウスを用いて老化や肥満といった慢性炎症の解析と、慢性炎症に対する運動効果を検討する。 その他、実験用器具(ディスポーザブルプラスティック製品など)、細胞培養試薬(培地、抗生物質、牛胎児血清、各種薬剤など)、分子レベルでの解析に必要な試薬類(抗体、リアルタイムPCR試薬、DNAクローニング試薬、リポーターアッセイ試薬など)の購入費として、943,931円を使用する予定である。
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