研究課題/領域番号 |
23590754
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
山野 優子 昭和大学, 医学部, 准教授 (30167580)
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キーワード | 環境疫学 / 環境発がん物質 / 生物学的モニタリング / 多環芳香族炭化水素類 |
研究概要 |
環境化学物質による発がんは、予防医学の重要なターゲットの一つであり、有効なバイオマーカーの開発が急務である。そこで、特に多種類の発がん物質に曝露されている職域を対象とし、曝露の程度と複数の曝露関連因子と思われる要因との関係を網羅的に解析しマーカーを抽出することで、発がんとの関連性の基礎データを示すことを目的とした。今回対象としたのは製鉄所作業者であり、この作業者は多くの発がん性を示す多環芳香族炭化水素類(以下、PAHs)に長期間高濃度に曝露されている。 我々は、すでにこの作業者からサンプリングした尿試料について、複数のPAHs代謝物の分析を実施してきた。そしていくつかの個人曝露とPAHs代謝物との関連を報告してきた。しかし、分析したサンプルで未知のPAHs代謝物と思われるピークが5つ検出され、それらが高濃度である可能性もあるので検討を開始した。平成23年度には1-ヒドロキシフェナンスレンを特定することができ、その濃度は代表的なPAHsの代謝物である1-ヒドロキシピレンの約1/2程度の濃度であることが明らかとなった。平成24年度は、残りの未知4物質について検討を加えた。その結果、2-ヒドロキシフルオレンより前に出てくるピークが、PAHsのモノフェノール体である9-ヒドロキシフルオレンであることが明らかとなった。なお、3-ヒドロキシフルオレンについても同様に検討してきたが、未知ピークとは一致しなかった。現在、2-ヒドロキシフェナンスレン、4-ヒドロキシフェナンスレンについても検討を加えており、平成25年度ではそれらを明らかとし、作業者および対照者も含めた1046検体を分析し、PAHs曝露と尿中代謝物の関係を整理し、質問票から得られたデータも合わせ網羅的に解析し、どの代謝物が発がんのリスク評価のよい曝露マーカーとなるかを明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、多環芳香族炭化水素類の尿中代謝物のうち未知であったものの2つの代謝物が特定できている。なお、当初の予定では、未知であった5つの代謝について全ての特定が終了するはずであったが、標準品を選定し、その購入(海外からの輸入)に多くの時間を要したことと、蛍光波長(excitation [nm]/emission [nm], 270/327;256/370;265/430)の特定に時間を要したために、2つの未知物質の特定にとどまった。しかし、全11代謝物については分析が終了しており、特に、発がんとの関係では、個人曝露量と発がん物質である7物質についての発がん係数から、トータルの発がん物質曝露量を計算し、尿中代謝物との関係を解析することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、現在検討中の2-ヒドロキシフェナンスレン、4-ヒドロキシフェナンスレンについても明らかにすることと、質問票から得た情報もふまえて、多環芳香族炭化水素類曝露の発がんリスク評価に最も有効なバイオマーカーを決定するつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
尿サンプルの前処理や高速液体クロマトグラフィー分析に必要なカラムやメンブレンフィルター、チューブ、バイアル、移動層(りん酸二水素ナトリウム・2水和物、りん酸水素二ナトリウム・12水和物)、β-glucuronidaseの購入に使用する。できれば、最終年度であるので、実際の中国の現場に再度調査に行き、現場環境濃度の測定と連携研究者とのmeetingを実施したいので、それらの会議費にも使用する予定である。
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