研究課題/領域番号 |
23590763
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
保利 一 産業医科大学, 産業保健学部, 教授 (70140902)
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研究分担者 |
石田尾 徹 産業医科大学, 産業保健学部, 講師 (90212901)
樋上 光雄 産業医科大学, 産業保健学部, 助教 (40588521)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 混合有機溶剤 / リアルタイムモニタリング / 気液平衡 / 物質移動速度 / VOCセンサー / PID |
研究概要 |
混合有機溶剤を取り扱う作業におけるリスクアセスメントに必要なツールを開発することを目的とし,溶剤の蒸発速度および気中濃度の推定と,蒸気濃度のリアルタイムモニタリング法の開発の2つの面から検討を行った. 蒸発速度の検討については,恒温槽内に設置したガラス製の円筒容器に有機溶剤を入れ,温度,湿度をコントロールされた空気を一定速度で連続的に供給し,容器出口の蒸気濃度をオートガスサンプラーで採取してGCで経時的に測定することにより,濃度の経時変化を調べた.また,気液平衡論及び蒸発速度論を用いた蒸気発生濃度の理論モデルを構築し,実験値と比較検討した結果,良好な一致が見られた.さらに,発生した蒸気の空間での挙動を数値流体解析を用いてシミュレーションを試みた結果,ある程度実験地の傾向を説明することができたが,限られた条件での結果であるため,平成24年度,さらに詳細に検討する予定である. リアルタイムモニタリング法については,テドラーバッグ内に有機溶剤を所定量入れて気化させ,この蒸気の濃度を原理の異なる2種類のセンサー(光イオン化検出法(PID),干渉増幅反射法(IER))を備えたモニタリング機器について,各種有機溶剤センサーに対する感度を調べた.溶剤は有機溶剤中毒予防規則で作業環境測定の対象となっている第1種,第2種有機溶剤(異性体を含め全52種)を対象とし,これらの溶剤に対する各種センサーの特性を調べた.本研究の対象は混合有機溶剤であるが,平成23年度は,単一成分についてスクリーニング的に検討を行った.その結果,PIDセンサーについては21種類の溶剤がまったく反応せず,反応しても感度が低い物質も見られた.また,センサーの感度が日によって変動することもわかった.IERセンサーは,すべての蒸気が反応したが,濃度と指示値の間に直線性が見られなかったものや,感度が不十分なものも見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,混合有機溶剤の蒸発速度及び気中濃度の推算法と,リアルタイムモニタリングによる混合有機溶剤の測定法の開発という2本の柱で進めているが,蒸発速度の検討については,平成23年度は混合有機溶剤の蒸発の理論解析モデルの構築を目標としており,これについては,実験値との比較検討結果を含め,ほぼ当初の目的通り進んでいる.この成果の一部については,平成23年3月,メキシコで行われた国際労働衛生会議において発表した.また,発生した後の蒸気の空間内分布についても,一部ではあるが数値流体解析によるシミュレーションを行っており,この部分についても順調に進んでいる.これについては,本年9月に国際学会で発表する予定で研究を進めている. 一方のリアルタイム測定手法の開発については,研究を遂行していく中で,当初予定していたPIDセンサーを有する機器が製造中止となったため,当初予定していた機器が購入できず,研究代表者が以前から所有していた古い機器を用いて実験を行うこととしたが,感度が安定しないなどの問題があった.このため,センサーの感度を確認しながらの測定となり,単一溶剤については一通りの測定は行ったが,所期の計画通りには進まなかった.このPIDセンサーを用いた機器については,平成23年度末に同じ原理の後継機種を購入したので,これを用いて平成24年度にさらに検討する予定である.順調にいけば,混合有機溶剤についても平成23年度に一部検討を行う予定であったが,平成24年度に改めて検討することとした.単一溶剤に対するセンサーの特性については,本年5月に名古屋で開催される日本産業衛生学会で成果の一部を発表する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き,2つの側面からの検討を行う.まず,蒸発速度の検討については,混合有機溶剤の種類を変えて引き続きデータを収集するとともに,温度,湿度の影響についても検討する.また,理論モデルについても,これらの影響を考慮し,より,実際の現場に近い条件での解析を行う.さらに,シミュレーションで得られた値については,実験による検証を行うとともに,実験が困難な条件でも数値流体解析によるシミュレーションは可能であるので,換気条件や局所排気装置を設置した場合など,幅広い条件でシミュレーションを行い,環境の状態を把握する手法を検討する. リアルタイムモニタリングについては,昨年度末に購入したPID方式のセンサーと,IER方式によるセンサーに加え,半導体センサーを用いた機器についても検討を行う.また,昨年度は単一成分のみしか検討を行っていないため,本年度は2~3成分系の混合有機溶剤について検討を行う.具体的には,ひとつの成分の濃度を固定し,もう一方の成分の濃度を替えて測定を行い,それぞれの成分のセンサー指示値への影響が相加的か否かについて検討する.その結果を踏まえ,リアルタイムモニタリング機器により,混合有機溶剤蒸気の濃度を評価できる方法について検討する. 最終年度は,以上の2つの研究成果を統合し,リスクアセスメント手法を確立する方法について検討する.すなわち,まず,混合有機溶剤作業において,使用する有機溶剤から,蒸発速度を予測し,これから,環境濃度あるいは曝露濃度を予測する方法,さらに,それらの濃度を簡便に測定する方法,そして,測定結果から,対策を行う必要がある場合の,効果的な局所排気装置,換気装置の設計,設置手法等について検討する.そして,これらを有機的に関連させ,混合有機溶剤作業のリスクアセスメント・リスクマネジメントに資する手法を確立するための研究を推進する.
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次年度の研究費の使用計画 |
蒸気発生速度の検討については,平成23年度は,現有の空気恒温槽内で蒸気を発生させ,濃度を検討してきたが,平成24年度は,これに加えて温湿度の影響についても検討する計画である.そのためには,温湿度をコントロールする必要がある.しかし,現在の恒温槽は,室温以上であれば恒温にできるが,湿度についてはコントロールができない.このため,湿度調節が可能になるよう装置の改良を行う予定である.具体的には,加湿器と湿度センサーを組み合わせた湿度調整の方法を考えている. また,リアルタイム測定については,PIDセンサーは,原理的に溶剤のイオン化電位以上の電位をかけないと,溶剤はイオン化しない.昨年度使用したPIDを用いた機器は,イオン化電位が10.6eVで固定されていたため,これよりもイオン化電位の高い溶剤はセンサーに反応せず,また,この値に近い溶剤は感度が十分ではなかった.昨年度新たに導入したPIDセンサーは,ランプを交換することによりイオン化電位を変えることができるので,イオン化電位が異なるランプを購入し,検討することにしたい.また,半導体センサーを用いた機器については,現在1台所有しているが,購入当初に比べ経年劣化のためセンサーの感度が極めて低くなっており,実用性に問題があるため,センサー部分の交換または同じ仕様の機器を新規購入するこを考えている.数値流体解析ソフトについては,新しいバージョンのものが販売されているが,きわめて高価であるので,現在のバージョンのものを工夫して用いることとしたい.
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