研究課題/領域番号 |
23590767
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研究機関 | 独立行政法人労働安全衛生総合研究所 |
研究代表者 |
上野 哲 独立行政法人労働安全衛生総合研究所, 人間工学・リスク管理研究グループ, 主任研究員 (60291944)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 熱中症 / 認知テスト / 代謝率 / 心拍数 |
研究概要 |
作業現場での労働者の深部体温測法を確立するため、実験室実験で被験者の直腸温度と鼓膜温度、尿温度、額の温度を測定した。夏期に節電の影響により本実験が出来なかったため予備実験の結果を示す。鼓膜温度は、環境温度の影響が大きく25℃では直腸温度よりも低かったが、気温35℃近辺では直腸温度に近い値となった。尿温度は、採尿時の環境の影響を受けると考えられるが、直腸温度と大きな差がなかった。額の温度は、発汗の影響を大きく受け低い値となった。従って、作業現場で深部体温の指標として使えるのは、尿温度もしくは気温が35℃位の時には鼓膜温度も使用可能であるという結果であった。 暑熱作業現場で認知機能が低下し事故の誘因となっているかどうかを明らかにするために、作業現場で認知機能の検査を行う予定である。そのため、被験者実験でCambrige大学の認知機能検査ソフトCANTABのなかの注意力を検査するソフトを使って行った。3種類の暑熱環境下でエルゴメータを使った断続的な40分程の運動負荷前と後に検査した。暑熱30分曝露後の運動負荷前では、気温が高くなるにつれて反応時間が遅くなる傾向にあったが、運動後ではかえって反応時間が速くなった。 作業時の代謝率を予測するために、心拍数がよく用いられる。心拍数と代謝量の関係は、ISO8996で与えるが、気温の影響は考慮されていない。気温の影響を明らかにするため、3種類の暑熱環境中でエルゴメータを用いて運動負荷を加える被験者予備実験を行った。心拍数-代謝率の直線が高温で心拍数が高いほうに移動する場合と、気温で変化がない場合があった。今後本実験でデータを増やす予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
暑熱に関する被験者実験は、暑熱に順化している夏に行う必要がある。しかし、昨年夏は電力不足による節電のため、電力を多量に必要な人工気象室が使えず実験が出来なかった。夏期以外に予備的な被験者実験を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、夏期に建設業に従事する3つの年齢層(20-24歳、35-44歳、55-64歳)を対象に現場調査を行う予定である。実験室実験では脱水状態が短期記憶、ワーキングメモリー、視覚移動に悪影響を及ぼすことがパソコンを使った認知機能検査により示されているため、短期記憶、及び集中力を検査できるソフトを使って調査する。各年齢層でほぼ同じ人数を調査し、複数の屋外作業場所で調査を行う予定である。環境測定では、WBGT(乾球温度、湿球温度、黒球温度、風速)及び放射光を測定する。屋外作業場で放射光を太陽からの直達光と地面等からの反射光に分けて計測する。生理学的には心拍数、活動度、尿量等を測定する。質問紙調査(口渇感、温熱感、疲労感等)も行う。作業者の尿を採取して脱水を示す指標を計測する。尿成分分析も行う予定である。以上計測したデータを解析して、高齢者で、口渇感、摂水量、体重減少量、尿量、疲労度が若年者と比べ異なるかを比較する。深部体温の上昇、認知機能検査の測定値が作業前後で高齢者と若年者で比較検討をする。 昨年度行う予定であった被験者実験も行い、心拍数と代謝量の関係をそれぞれの年齢層で実験し、心拍数から代謝量を予測する式を求める。ISO8996には、心拍数と代謝率の関係を表す式が示してあるが、外気温の影響を考慮していない。そのため、本年度は気温による影響がどの程度大きいかを実験し、現場調査のデータに合わせて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
被験者実験では、前年度行う予定が節電等の関係で出来なかったため、本年度行う。被験者謝金として(約50万円)、実験協力者謝金として(21万円)を予定する。 現場調査は、本年度に来年度行う分の調査人数まで加えて行う予定である。被験者謝金は総額で45万円を予定する。調査が長期間に及ぶのに加え、調査人数が多いため、研究補助者を総額30万で補充して調査を行う。認知機能検査ソフトを動かすためのタブレット端末は4台を追加購入し(17万円)、他に舌下体温計(60台で12万円)、サンプル尿保存のためのクライオバイアル(4万円)、凍結するためのドライアイス(3万円)を予定する。現場への機材の運搬費用として20万円、その他交通費15万円を予定する。
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