研究課題/領域番号 |
23590768
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研究機関 | 大阪市立環境科学研究所 |
研究代表者 |
阿部 仁一郎 大阪市立環境科学研究所, その他部局等, 研究員 (10321936)
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研究分担者 |
寺本 勲 (木俣 勲) 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20153174)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 寄生虫 / アレルギー / 食中毒 / 食品衛生 |
研究概要 |
(1)アニサキス幼虫に対する特異抗体の産生を確認するための手法として、ELISA法によるアッセイ系の構築を目指した。幼虫感染率が高い鮮魚のサバからアニサキス幼虫を分離、培養し、幼虫の排泄分泌抗原(excretory-secretory antigen)と虫体抗原(somatic antigen)を調整、精製した。これらの抗原を用いてELISAアッセイを行ったところ、幼虫特異IgG、IgMはペルオキシダーゼ標識二次抗体を用いた場合に検出可能であったが、IgE抗体は全く検出できなかった。しかし、トータルIgE抗体は上昇していたので特異IgE抗体も上昇している可能性が高いと考え、より検出感度の高い方法としてマウス抗ラットIgEモノクローナル抗体とペルオキシダーゼ抗体を併用したところ、特異IgEの検出が可能であった。(2)死滅幼虫を経口的に摂取した場合に、幼虫に対する特異抗体の産生が誘発されるか否かについて、前述のELISA法を用いて解析した。その結果、生きた幼虫を投与したラットでは全個体で幼虫特異抗体(IgG、IgM、IgE)の産生を認めたが、幼虫のホモジネート、加熱、凍結、生きた幼虫の切断片といった、幼虫が死滅した状態のものを経口投与した場合にはその上昇を認めなかった。(3)胃腸管損傷を引き起こす薬剤投与の前処置が、死滅幼虫を投与した場合に幼虫特異抗体の産生を引き起こす可能性について検証した。NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)として汎用されているアスピリンをラットに投与したところ、24時間後の剖検所見で胃粘膜被蓋上皮細胞層の変性、壊死、剥離が認められた。次に、アスピリン投与後の個体に幼虫のホモジネートを投与したところ特異抗体の産生が認められた。このことから、死滅幼虫を摂取した場合でも、消化管粘膜に損傷があれば特異抗体の産生が引き起こされることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)研究費配分の遅延と配分額減額の可能性があったので、実験当初の予算執行を制限する必要があった。(2)本研究課題の内容は、これまでほとんど注目されてこなかった点にフォーカスを充てており、参考となる文献もないことから実験の方針を固めるのに時間を要した。(3)幼虫の感染と抗体産生を検証するまでには、実験の性格上、数ヵ月を要するため結果を踏まえて次の実験をスムーズに行うことが困難であった。(4)感染実験を行う動物室のスペースが狭いため、一度に多数の動物を扱うことができず、それにより複数の実験を並行して行うことが困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、消化管に異常を認めない場合は、アニサキスの死滅幼虫を摂取しても特異抗体の産生が誘導されず(感作状態にはならない)、粘膜に異常があれば産生されるという現象を確認した。しかし、特異IgE抗体の存在はアレルギー症状を必ずしも誘発するとは限らないため、(1)産生された特異IgEが肥満細胞のレセプターに結合し、抗原投与でヒスタミンなどの炎症性物質が分泌されるか否かについて、in vivoとin vitroで検証する。(2)アレルギー症状が引き起こされるためには、アレルゲンとなるアニサキス幼虫の抗原が循環血中に移行する必要があるため、血中抗原を特異的に検出するアッセイ系を構築し、幼虫の感染および薬剤処置後の死滅幼虫投与時に循環血中に抗原が移行するかどうかについて検証する。(3)アニサキス特異抗体が認識する幼虫抗原の性状を解析することは、感染または薬剤処置後の死滅幼虫の投与で産生された抗体が幼虫のアレルゲンを認識しているのかどうか確認する上で重要であることから、イムノブロット法などにより抗原解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)実験動物へのアニサキス幼虫の感染、投与実験を引続き行うため、実験動物(ラット、モルモットなど)の購入維持費、アニサキス幼虫を分離するための鮮魚の購入費に充てる。(2)肥満細胞への特異IgE抗体の感作と脱顆粒反応を検証するため、ラット腫瘍化肥満細胞の購入維持とそのアッセイ系試薬の購入に充てる。(3)ポリクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法によるアニサキス循環抗原の検出系を構築するため、抗体作製とその動物購入・維持およびELISA関連の費用に充てる。(4)薬剤処置後の特異抗体の産生の程度は動物個体間で異なっていたので、一様な抗体産生が得られるような薬剤投与方法について検討したい。このための費用として実験動物購入、維持および病理組織学的検査の費用に充てる。(5)特異抗体が認識するアニサキス幼虫の抗原性状を生化学的に解析するため、イムノブロット法などに用いる試薬購入の費用に充てる。
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