研究課題/領域番号 |
23590768
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研究機関 | 大阪市立環境科学研究所 |
研究代表者 |
阿部 仁一郎 大阪市立環境科学研究所, その他部局等, 研究員 (10321936)
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研究分担者 |
寺本 勲(木俣勲) 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20153174)
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キーワード | 寄生虫 / アレルギー / 食中毒 / 食品衛生 |
研究概要 |
(1)アニサキス幼虫(L3)に対するウサギポリクローナル抗体を作製し高力価の抗血清を得た。また同抗血清からIgG分画を精製し、精製IgG抗体の一部をビオチン標識した。正常ラット血清に抗原を添加して二抗体ELISA法で検出感度を検討したところ、0.1μg/ml(10ng/100μl)の抗原濃度を検出できると考えられた。この感度は、過去に海外で報告された2.5μg/mlよりも高かった。 (2)胃粘膜傷害を誘発することが知られているアスピリン等の投与と、消化管アレルギーを誘発することが知られているオボアルブミン(OVA)等の感作処置をBNラットとBALB/cマウスに施し、処置後に抗原を投与した場合の特異抗体産生の有無について、予備的に検討した。BNラットでは、アスピリン、サリチル酸ナトリウム投与個体において、特異抗体の産生を認めなかったが、大豆レシチンとサリチル酸ナトリウム併用投与個体の一部において、特異抗体の微増を認めた。また、OVA感作個体でも一部の個体で、特異抗体の微増を認めた。一方、マウスにおいては、アスピリン、サリチル酸ナトリウム処置個体において特異抗体の産生を認めなかったが、大豆レシチンとサリチル酸ナトリウム投与個体の一部において、特異抗体の微増を認めた。以上のことから、食事成分である大豆レシチンとサリチル酸ナトリウムの併用投与はL3抗原の消化管粘膜への浸潤を促す可能性のあることが考えられた。 (3)L3には病原性を示す種間での交雑種や兄弟種の存在が知られており、それらの形態学的鑑別は不可能である。遺伝的に多様で形態学的特徴に乏しく、寄生虫性食中毒を誘発する可能性があるジアルジア原虫、クドア胞子虫ならびに海産魚寄生のディディモゾイド吸虫のPCR-シーケンス法による分子同定法を、アニサキス幼虫の交雑種鑑別に応用する目的で、それら寄生虫で試みられている手法の有用性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の実験において、粘膜障害作用のある薬剤の前投与後に抗原投与した場合でも特異抗体産生を認めたが、今年度はアスピリン等の薬剤ではなく、食事性の成分等が消化管粘膜の抗原透過性を高めている可能性を探るため、その実験手法の検索に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、アニサキス特異抗原検出のためのポリクローナル抗体の作製を行い、また、胃腸管粘膜の傷害を誘発するアスピリン以外の薬剤処置、特に通常の食事で摂取する食材成分の前投与で特異抗体産生を認めるか否かについて予備的に検討を行った。 次年度は、(1)アニサキス幼虫感作後の実験動物消化管内の病理組織学的検索を経時的に行い、粘膜肥満細胞とそこから放出される各種炎症メディエーターの初感作と再感作後の挙動について検索し、アニサキス感染による急性・慢性の発病機序について解析する。(2)アニサキス感作後の血中循環抗原の挙動を経時的に解析するとともに、初感作後特異抗体価が低下した時期に、アスピリン、OVA、食事成分の感作を施して抗原を投与した場合、循環抗原量の上昇と特異抗体の産生を認めるか否かについて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)実験動物へのアニサキス幼虫の感染、投与実験を引続き行うため、実験動物の購入とその維持費、アニサキス幼虫を分離するための鮮魚の購入に充てる。 (2)アニサキス感作後の実験動物消化管粘膜の病理像、炎症メディエーターの挙動を検索するために、病理組織標本の作製、免疫特殊染色の費用に充てる。 (3)感作後の循環抗原の検出費用に充てる。 (4)循環抗原の性状解析の費用に充てる (5)3年間の成果をまとめた論文、学会報告の費用に充てる。
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