研究課題/領域番号 |
23590781
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
若杉 三奈子 新潟大学, 医歯(薬)学総合研究科, 特任助教 (10584782)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 耳朶皺襞 / 透析患者 / 評価者間一致率 / Kappa統計量 |
研究概要 |
耳朶皺襞とは耳朶に斜めに走る襞のことであり、その存在は動脈硬化性疾患、すなわち、心血管病の危険因子であることが、欧米人のみならず、日本男性の剖検例でも報告されている。 しかし、耳朶皺襞は、心血管病の独立した危険因子であるという報告も多数ある一方で、関連を認めない、あるいは、単に加齢による影響を見ているにすぎないという報告もあり、まだ一定の見解が得られていない。その理由として、耳朶皺襞の評価者間一致率(Kappa統計量)がこれまで一度も検討されていないことが考えられる。すなわち、もしも耳朶皺襞を異なった評価で判断していれば、一定の見解が得られない可能性がある。 そこで本研究では、心血管病のハイリスク集団である透析患者を対象として、耳朶皺襞の評価者間一致率を検討し、さらに心血管病との関係を明らかにする。これにより、ベッドサイドで簡便に行えるスクリーニング検査として、耳朶皺襞の有無が使えるかどうかが明らかになり、その知見は実際の臨床現場で役に立つこととなる。 研究初年度である今年度は、研究計画書の作成、倫理委員会への申請を行った。208名の血液透析患者の同意を得て、両耳朶の写真撮影を行った。患者の臨床情報を知らない医師2名が耳朶皺襞を評価し、その評価者間一致率(Kappa統計量)を求めた。さらに、これまで報告のない維持透析患者における耳朶皺襞陽性割合を明らかにした。評価方法が一定ではないため単純な比較はできないが、この透析患者での陽性割合の数字は、これまで日本人で報告されている他の集団の数字よりも高い可能性が考えられた。 さらに、耳朶皺襞と心血管病との関連を明らかにするために、心血管病の既往との関連について横断研究を行い、さらに発症との関連を明らかにするために前向き研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、耳朶皺襞を撮影・評価し、評価者間一致率(Kappa統計量)を明らかにした。維持透析患者における耳朶皺襞陽性割合を明らかにした。これらの結果をまとめ、学会発表準備、ならびに、論文を執筆中である。1.研究初年度である今年度は、研究計画書の作成、倫理委員会への申請を行った。2.208名の血液透析患者の同意を得て、両耳朶の写真撮影を行った。3.患者の臨床情報を知らない医師2名が耳朶皺襞を評価し、その評価者間一致率(Kappa統計量)を求めた。Landis JRとKoch GG.らによる評価(Biometrics 1977;33:159-74)を用いれば、耳朶皺襞のKappa統計量は高度の一致(substantial agreement)と判断された。4.透析患者における耳朶皺襞の陽性割合を明らかにした。評価方法が一定ではないため単純な比較はできないが、この透析患者での陽性割合の数字は、これまで日本人で報告されている他の集団の数字よりも高い可能性が考えられた。また、この陽性割合は、当初、サンプルサイズ計算を行った際に仮定した数字と離れていた。そのため、十分な検出力を有する前向き研究とするために、サンプルサイズを計算し直し、追加症例登録を予定した。これは当初から想定していたことである。これらの結果をまとめ、学会発表準備と論文執筆を現在行っている。
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今後の研究の推進方策 |
(平成24年度)平成23年度に得られた結果について、学会発表ならびに論文投稿を行う。平成23年度に得られた透析患者における耳朶皺襞の陽性割合は、当初、サンプルサイズ計算を行った際に仮定した数字と離れていた。そのため、十分な検出力を有する前向き研究とするために、サンプルサイズを計算し直し、他の透析施設からの新たな研究参加者を募る。耳朶皺襞を認める患者では、認めない患者に比べて、心血管病の発症率に差があるかどうかを明らかにする(前向きコホート研究)。(平成25年度)平成24年度に引き続き、心血管病の発症を前向きに観察する。各施設を訪問し、イベント発症の有無、脱落等を診療録より確認する。データはすべて匿名化したのち、新潟大学に集め、データクリーニング、および、解析をおこなう。(平成26年度)平成25年度に引き続き、心血管病の発症を前向きに観察する。各施設を訪問し、イベント発症の有無、脱落等を確認する。データはすべて匿名化したのち、新潟大学に集め、データクリーニング、および、解析をおこなう。(平成27年度)平成26年度までに得られたデータを基に解析を行い、耳朶皺襞と心血管イベント発症の関連について、学会発表と英語論文作成を行う。また、耳朶皺襞の有無は特別な検査を必要とせず、誰でも目で見て判断することができるため、本研究の成果は国民にも理解しやすいものであると考える。そのため、新聞などのメディアを通じて、広く国民へも研究成果を伝える予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に得られた結果について、学会発表ならびに論文投稿を行う。そのため、英文校閲料、論文投稿料、論文別刷代が必要である。平成24年10月にサンディエゴで行われるアメリカ腎臓病学会で研究成果の発表を予定しており、新潟からの旅費と宿泊費が必要である。 平成23年度に得られた結果から、サンプルサイズを計算し直し、他の透析施設からの新たな研究参加者を募る。耳朶の撮影は、施設間で差が出ないように、同一のデジタルカメラで同一の撮影者(研究代表者)が行う。そのため、各透析施設への交通費が必要である。また、耳朶の撮影に協力していただいた患者さんに500円の図書券を謝金として支払う。撮影とは別に、診療録からの情報を得るため各透析施設への交通費が必要である。月水金と、火木土の透析コースがあり、また午前透析、午後透析、夜間透析と、透析終了時間がそれぞれ異なり、また一度の訪問ですべての臨床情報を集めることは時間的に困難と考え、各施設にそれぞれ8回ずつ訪問する予定である。 また、研究協力者から文書で得る同意書、ならびに、診療録から臨床情報を記載する調査票等の物品費が必要である。
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