研究課題/領域番号 |
23590786
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
尾島 俊之 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50275674)
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キーワード | 保健医療行政 / 社会医学 / 衛生 |
研究概要 |
アセット・モデルは地域のニーズや改善を要するところではなく、地域に既にある資源や良いところに注目して、公衆衛生活動を展開しようとする手法である。この研究の目的は、(1) アセット・モデルの概念や論点を整理して我が国の状況にあったアセット・モデルのあり方を明らかにすること、(2) 全国の市町村及びモデル地域におけるアセット・モデル的な施策の現状を明らかにすること、そして、(3) アセット・モデルによる公衆衛生施策の効果を検証することである。平成23年度の研究では、アセット・モデルに関する海外及び国内の文献、活用市町村についての情報収集と検討を行った。また、全国の市町村を対象とした保健活動等の実施状況調査データを用いて、アセットの活用状況に着目した解析を行った。さらに、自治体内の小地域単位のアセットの状況と健康状態の関連を検証するため、A市の高齢者を対象に無作為抽出による郵送調査を実施した。平成24年度には、全国の市町村について、介護保険事業状況報告データを用いて前期及び後期高齢者について年齢調整をした要介護者割合(要介護2以上)を算定し、アセットの活用状況との関連を分析した。アセットの活用として、企画立案において人と人のネットワークの強さを考慮している市町村での要介護者割合は9.49%であり、考慮していない市町村での9.68%よりも有意に低かった(p=0.04)。さらに、有償ボランティアにつなげる仕組み、生活支援を行う仕組みのある市町村でも要介護者割合が低い傾向が見られた。また、モデル自治体において、アセット・モデルを用いた健康増進計画の策定を試みた。具体的には、地域の種々の組織の関係者や住民等の参加によって、地域のアセットを探して言語化を行うグループワークを行い、その結果得られたアセットの紹介を行うとともに、その活用の検討を行い、健康増進計画への反映を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的及び研究計画と照らして、おおむね順調に進展することができた。具体的には、本研究の第1の目的であるアセット・モデルの概念や論点を整理して我が国の状況にあったアセット・モデルのあり方を明らかにするために、まず国内外の文献の収集・検討を行った。また、アセットを活用している事例についての情報収集と検討を行った。日本国内においてもアセットのマップ化を行い、健康づくりに活用している事例などは、有力な先行事例であると考えられた。さらに、モデル市町村において、市町村及び保健所等の地域保健関係者等との検討しながら、地域の関係組織や住民の参加も得てグループワークを行い、その結果を用いて実際にアセット・モデルを活用した健康増進計画の策定を試行した。第2の目的である全国の市町村及びモデル地域におけるアセット・モデル的な施策の現状を明らかにすることに関しては、全国の市町村を対象とした保健活動等の実施状況を調査したデータを用いて、アセットの活用状況の現状を明らかにした。具体的には、種々のアセットについて、全国の何%の市町村で活用しているかについて明らかにすることができた。また、第3の目的であるアセット・モデルによる公衆衛生施策の効果の検証として、全国の市町村におけるアセットの活用状況と要介護割合との関連性を検証することができた。また、A市の協力を得ることができたため、A市在住の高齢者を対象とした無作為抽出による郵送調査を実施することができた。このデータを用いて平成25年度にA市内の各小地域単位でのアセットやその活用状況に関する調査結果を得た上で、関連性の分析を行い、小地域単位でのアセット・モデルの効果検証を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究では、A市の小地域単位でのアセットやその活用状況についての調査を行い、既に調査した高齢者の生活習慣や健康状態等との関連を分析する予定である。仮に、体系的な調査が実施できなかった場合には、既存データとGIS(地理情報システム)などを用いて、市内の各小地域におけるアセットの把握を行う予定である。さらに、自治体の協力が得られれば、再度、地域の高齢者を対象とした調査を行い、最新の状況また生活習慣や健康状態の変化との関連を分析する。次に、平成24年に厚生労働省から発表された健康日本21(第2次)において、総合健康指標としての健康寿命の重要性が強調されていることから、可能であればアセット・モデルを活用した最終アウトカムとしての健康寿命に関する検討を行う。特に市町村における健康寿命算定の方法として、要介護者割合を用いた方法が標準的に用いられている。平成24年度の研究において、アセットの活用と要介護者割合との関連がみられた結果も出ているため、健康寿命に関する検討は重要であると考えられる。また、全国の各市町村におけるアセットの活用について、他の健康指標との関連の分析も進めていく。その他、前年度までにアセット・モデルを活用した市町村健康増進計画策定の試行を行ったことから、その後の健康増進計画に基づく保健事業の推進においても、アセット・モデルの活用について引き続き試行する。また、他の市町村に広げて、アセット・モデルを活用した健康増進計画の策定やその推進の試行を行う。さらに、平成25年度は本研究事業の最終年度であることから、これまでの研究成果の取りまとめを行い、学会発表や論文作成等によりその発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、A市における小地域単位のアセットやその活用状況についての調査のために研究費を使用する。調査の打ち合わせのための旅費、調査票の印刷費、配布及び回収のための送料等を要する。小地域単位の既存データの購入等を行う必要が生じる可能性もある。また、自治体の協力が得られれば、地域の高齢者を対象とした調査を行う。同様に、調査票の印刷費、配布及び回収のための送料等の経費を要することになる。また、これらの調査データの整理や分析のための経費も要する。また、費用的には少額であると考えられるが、アセット・モデルを活用した健康増進計画策定や推進の試行を行っている自治体等との連絡調整、意見交換等のための経費として旅費等も予定している。さらに、研究成果のとりまとめ、またその発表、また関連情報の収集のために、英文校正費、学会参加費、旅費、投稿料等の経費が必要となる。平成25年度はこの研究の最終年度であることから、備品の購入は行わない予定である。
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