研究課題/領域番号 |
23590799
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤本 秀士 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30199369)
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研究分担者 |
重松 美加 国立感染症研究所, その他部局等, 研究員 (20299598)
小島 夫美子 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80136564)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | Campylobacter enteritis / Food poisoning / Molecular epidemiology / カンピロバクター腸炎 / 食中毒 / 分子疫学 |
研究概要 |
近年増加して問題になっているカンピロバクター腸炎の日本での実態解明を目的に,臨床情報と分離菌株情報とを連結した解析を進めている. 本感染症の大部分を占める散発性腸炎について,福岡地域の183検体の臨床情報を解析した.患者年齢分布は,30歳未満の割合が全体の約9割を占め,特に5~9歳での発生数が最も多く,次いで10~19歳であった.1歳未満の発生率が非常に少なく,欧米と大きく異なっていた.一方,男女比は欧米の報告とほぼ同様であった.分離菌株の分子生物学的菌種同定では,C. jejuniが最も多く,次いでC. coliであった.鞭毛遺伝子(fla A)によるPCR-RFLP法では,多くの菌株ではパターンが異なっていたが,同一パターンを示す菌株グループも見られた. 本菌による集団食中毒事例(集団発生例)について,福岡市内の飲食店で発生した事例(11名グループ中8名が症状を訴え,便培養で8名全員からカンピロバクターが検出)について,臨床情報および分離菌株の分子生物学的解析を行った.症状では,下痢が有症者全員にみられ,期間は3~10日間であった.発熱は一部に見られた.分離された10菌株は,生化学的性状検査および分子生物学的検査で全てC. jejuniと同定された.これらの菌株は鞭毛遺伝子の解析(fla A PCR-RFLP)で2群に分けられ,RAPD法および細胞致死性伸張化毒素cytolethal distending toxinの遺伝子解析においても異なる2菌株であることがわかり,原因食品が複数の菌により汚染されていたと推察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は,(1)医療機関からのカンピロバクター腸炎検体より臨床情報およびカンピロバクター分離株を収集し保存,(2)菌株情報の解析:菌種同定(生化学的・分子生物学的方法),血清型別,分子生物学的型別(flaA PCR-RFLP,MLST),薬剤耐性(特にキノロン系薬剤),(3)臨床情報および菌株情報をデータベース化,(4)上記データの分析およびデータ間比較解析によるカンピロバクター腸炎の実態解明である. 現在までに,(1)福岡地区のカンピロバクター腸炎検体より菌株とそれに附帯する臨床情報を収集した.そして(2)収集菌株の菌種同定とflaA PCR-RFLPを実施し,(3)臨床情報の全てと菌種・flaA PCR-RFLPの一部をデータベース化した.さらに(4)これまでに得られた各データを解析し,その分析結果を国内学会および国際学会において発表した(研究業績参照).
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今後の研究の推進方策 |
今後,得られた情報(臨床・菌株)のデータベース化を進めるとともに,より詳細な菌株情報としてMulti Locus Sequence Typing(MLST)を実施する.MLSTは,塩基配列に基づいた分子疫学的解析手法であり,菌株由来のハウスキーピング遺伝子を数種類設定してシーケンス解析をすることで,遺伝子セットとしてその塩基配列をパターン化する.これをデータベースとして解析することでアリルプロファイルすなわちSequence Typeを同定・分類することができる.C. jejuniのMLSTでは,グルタミンやクエン酸合成酵素(glnA,gltA)など7つの遺伝子が候補とされている.菌株から得られたDNAを鋳型に,各遺伝子に対応したプライマーを用いてPCRを行い,得られた産物をもとにダイレクトシークエンス法によって塩基配列を決定する.得られた塩基配列はBioNumericsによって菌株毎にデータベース化する.BioNumericsは電気泳動画像や塩基配列など多様な生物学実験データをデータベース化して系統分類・解析・同定を行う実験データ統合環境ツールであり,これまでに得られた研究データとMLSTデータとの相互解析を行い,カンピロバクター腸炎菌株の系統分析と分子疫学および母集団構造の調査によって本菌感染症の実態解明を目指する.
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:菌の培養に必要な培地・プラスチック器具,PCRやMLSTのためのDNAを抽出するためのキット・酵素・試薬類など,消耗品に使用する.旅費:研究分担者との打ち合わせ旅費,研究代表者および分担者の国内学会(日本感染症学会,日本臨床微生物学会,日本細菌学会)での成果発表のために使用する.また,国際学会(米国微生物学会など)での発表も予定している.人件費・謝金・その他:MLSTの塩基配列決定は学内のセンターに委託する.また,得られた結果のデータベース化のための謝金および論文掲載料(投稿・別刷代金)も含まれる.
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