研究課題
東南アジア諸国には、デング熱と同様にチクングニア熱が広く蔓延している疾患であるが、症状が比較して軽かったことから今まで重要視されなかった。しかし、東アフリカに近いレウニオン島で本症の大流行が起こり、強毒株が分離された。類似の強毒株が東南アジアへ拡散して、重篤な症例が報告されるに至っている。ウイルス媒介蚊はデング熱と同様にネッタイシマカとヒトスジシマカであるが、後者が強毒株のウイルスと親和性が高い。本邦には後者のみが生息している。しかも、その近縁種を含むステゴミア亜属スキューテラリスグループ(ヒトスジシマカ群)の蚊は、琉球列島から北海道までこの群が生息している。日本全土に生息するヒトスジシマカ群のウイルス感受性を検討することは、国内での本症勃発の際には媒介蚊対策を検討する際に重要となろう。本研究の目的は、チクングニア熱の一次患者、さらに二次患者の国内発生を阻止するための、感染蚊の早期発見システムを構築することである。そのために、病原体検出の簡便・迅速法確立、国内のヒトスジシマカ群の本ウイルス感受性検討、そしてこれら蚊の生態をも考慮して、リスク評価することである。平成24年度は、感染蚊のみならず、ヒト血液とウイルス力価の異なるチクングニアウイルスを試験管内で混合した擬似感染血液を用いて、RNA未精製で、ウイルスゲノムを検出するRT-LAMP簡便・迅速法を改良して、良好な結果を得た。本簡便・迅速法によって、設備の整っていない野外でも容易に検査可能になりつつある。また、奄美大島からリバーズシマカとヒトスジシマカの野外採集を行い、累代飼育系統を確立した。これらを数世代継代後、蚊の本ウイルス感受性を検討するために、蚊の経口感染実験を行った結果、リバーズシマカがウイルス感受性を持つことがわかった。このことから、リバーズシマカがリスク評価の対象蚊となり得ることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
初年度の平成23年度に、ヒトスジシマカとネッタイシマカのチクングニアウイルス感受性を検討した結果、国内産のヒトスジシマカが本ウイルスに感受性を持つことを明らかにした。また、感染蚊からウイルスゲノムを迅速に検出する方法を確立した。平成24年度は、鹿児島南部および南西諸島からリバーズシマカの野外採集調査を行い、リバーズシマカ1系統、およびヒトスジシマカ2系統の累代飼育系統を確立した。これら蚊系統を数世代継代飼育した後、蚊のチクングニアウイルス感受性を検討するために、経口感染実験をBSL3実験室で実施した。その結果、奄美大島で採集したヒトスジシマカのみならずリバーズシマカのウイルス感受性がみとめられた。これらのことから、リバーズシマカの生息する地域では、患者発生を阻止するために駆除の標的蚊なり、国内ではヒトスジシマカのみならずリバーズシマカがリスク評価の対象蚊となりうることを確認した。また、初年度からの継続として、ウイルスゲノムを簡便かつより短時間に検出する方法を検討した。感染蚊の未精製乳剤、試験管内でヒト血液およびウイルス力価の異なるチクングニアウイルスを混合した未精製の擬似感染血液を用いて、RNAを精製することなく、ウイルスゲノムを検出できる簡便なRT-LAMP法を確立した。本法の簡便・迅速化によって、実験室内のみならず、設備の整っていない野外の簡易検査室においても、蚊のみならずヒト血液から直接ウイルスゲノムを検出することが可能となってきた。
奄美大島で採集したリバーズシマカ、ヒトスジシマカ、およびタイ国産ネッタイシマカは、既に実験室内で累代飼育に成功している。また、奄美大島産のリバーズシマカとヒトスジシマカは、レウニオン島で分離されたウイルス株と同様な塩基配列を示し、かつ強毒なチクングニアウイルスに対して感受性があることが既に明らかとなっている。これら蚊のチクングニアウイルス感受性をさらに掘り下げて検討する。我々の研究室では、チクングニアウイルスを数株保管している。これらウイルス株の中には感染したヒトに対して臨床症状の顕著な新型株とそうではない古典型株がある。新型株のウイルスは増殖が早いと言われている。この増殖の早さの違いが同じ蚊系統の中でも認められるのかどうかを調べる事は、異なる性状のチクングニアウイルスがわが国に移入された際に、媒介蚊対策をどのように進めるかの判断材料になり得る。同様なことが他の系統の蚊でも起こるのかどうかを調べる事で、ウイルスに対する蚊毎のリスク評価が行える。チクングニアウイルスに感染した蚊乳剤およびヒト血液から簡便でかつ迅速にウイルスゲノムを検出するために簡便・迅速なRT-LAMP法の改良を既に行ってきた。実際の流行地であるタイ国において、本簡便・迅速法が応用出来るかどうかを更に検討して、わが国での感染症に応用出来るマニュアルのブラッシュアップを図りたい。なお、最終年度に小笠原島でステゴミア亜属のAedes蚊の採集を予定していたが、近年の採集記録がないことから生息地の環境変化で、本種採集の可能性が低いことが懸念されること、および経費節約の2点から調査を断念することにした。
該当なし
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