研究概要 |
慢性萎縮性胃炎(CAG)は,胃がんの危険因子であるため,予防のためにピロリ菌除菌が行われているが,実際にCAGから胃がんに進展する割合はわずかである.一方,CAGは胃の機能低下,食思不振などを起こすことがあり,有病者が摂取・吸収するカロリーは非有病者より少ないことが考えられる.これは,メタボリックシンドローム(MetS)をはじめとする生活習慣病を予防する方向に働いている可能性があるが,この観点から公衆衛生的評価はされていないため,CAG関連の疫学を横断的に検討することを目的とする. 岡崎市医師会公衆衛生センターの人間ドックを2007-11年に受診した35-79歳の岡崎市民で,研究参加に同意が得られた受診者のうち,ペプシノーゲンテスト(PT)によるCAG判定が可能で,データ欠損のない男性4,114人,女性3,340人の合計7,454人を対象とした.CAGは,PT陽性,陰性の2群に分けた.肥満とMetS関連要因(血圧,血糖値,血清脂質)について,この2群間で差があるかを,年齢を補正した平均値の差を計算した. PT陽性は男性14.6%,女性13.2%で,いずれも年齢とともに陽性率は上昇した.男女ともPT陽性群での平均年齢が有意に高かった.肥満指標であるBMIと腹囲に2群間で有意差はなく,CAGの有病と肥満との関連は認められなかった.血圧,血糖値,血清脂質についても,男性の収縮期血圧がPT陽性群で0.8mmHg高く,総コレステロールが4.6mg/dl低いほかは有意のものはなく,CAGがMetSに強く関連しているとする結果は得られなかった. CAGの有病状態と肥満や肥満に関連する要因の間に,注目すべき関連は見いだせなかった.したがって,CAGは肥満や続発するMetS関連要因とは関連していない可能性が高い.この結果は,ピロリ菌除菌を積極的に行うことを推奨する方向に働くと考えられる.
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