研究課題
本研究は,現在追跡中の職域コホート集団を対象に,「慢性腎臓病の循環器疾患リスク上昇の原因の一つとして,腎機能低下に伴う甲状腺機能低下症が影響している」という仮説を検証する目的で,健常成人の腎機能の変化に及ぼす影響,および循環器疾患危険因子との関連を評価することを目的とする.平成25年度は,平成24年度に解析を行った甲状腺機能と肥満との関連の横断研究の結果をまとめ,論文にて発表した.また,平成24年度に測定した甲状腺機能および健診結果を平成21年度のベースライン調査の結果と結合し,縦断的な解析を行った.1)甲状腺機能と肥満の関連に関する横断研究:甲状腺機能が正常範囲内であっても,甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高いものほど体重やウエスト周囲径は大きく,この関係は非喫煙男性でより顕著であった.この結果は,日本内科学会の英文誌に発表した(Sakurai M, et al. Int Med. 2014).2)慢性腎臓病と甲状腺機能に関する研究:慢性腎臓病が甲状腺機能の変化に影響するかを検討した.推算糸球体濾過量(eGFR)はTSHと有意な負の相関を認め(p<0.001),すなわち腎機能の低下したものでは甲状腺機能は低下していた.しかし,eGFRはTSHの3年間の変化量とは有意な関連は認めなかった.一方で,eGFRの3年間の変化量はTSHの変化量と有意な相関を認めた(p<0.05).すなわちeGFRとTSHは横断的に関連するのみで,eGFRにより将来の甲状腺機能を予測することは不可能であることがわかった.また,3年間の血圧および血清脂質の変化量は,ベースラインのeGFR,TSHと関連は認めなかった.血清総コレステロール,非HDLコレステロールの変化量はeGFRの変化量と負に(ともにp<0.01),TSH変化量とは正に関連し(ともにp<0.001),甲状腺機能低下や腎機能低下はその時点での血清脂質とはよく関連するものの,将来の代謝異常悪化の予測には利用はできないことがわかった.
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Internal Medicine
巻: 53 ページ: 669-674
doi.org/10.2169/internalmedicine.53.1387