研究課題/領域番号 |
23590828
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
足達 寿 久留米大学, 医学部, 教授 (40212518)
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研究分担者 |
平井 祐治 久留米大学, 医学部, 講師 (70309780)
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キーワード | フェチュインA / インスリン抵抗性 / 脳卒中 / 心筋梗塞 |
研究概要 |
血清フェチュインA値は、肝臓で産生される糖タンパクである。基礎研究において、インスリン抵抗性を惹起しやすくなる可能性が示唆されており、疫学的にも 糖尿病発症者でフェチュインA値が高値であることなどが報告され始めている。 しかし、すでに人種間でのフェチュインA値に差があることが分かっているにも関わらず、日本における一般住民でのインスリン抵抗性との関連については、ほとんど何もわかっていない。 我が国の一般住民検診において血中フェチュインAを測定した。インスリン抵抗性との関連を明らかにし、血中フェチュインAが将来、脳・心血管疾患の発症と関連するかを前向きに検討している。 対象は、2009年と2010年に行った長崎県佐世保市宇久島での住民検診451人を解析した。保存血液を用いてフェチュインAをELISA法で測定した。我々はまず、フェチュインA値の分布、平均値、男女差とともに横断研究を通じてインスリン抵抗性との関連の有無を検討した。フェチュインA平均値は男性240.4±46.1μg/dl、女性251.6±58.9μg/dlであり、女性が有意に高値であった。Fetuin-Aを目的変数とした単変量解析では、女性、インスリン、HOMA-R、フィブリノゲン、GPT、LDL-Cが有意な正の関連を認めた。Fetuin-Aを目的変数とした重回帰分析では、HOMA-Rに最も強く相関があった。フェチュインA3群別にみた共分散分析では、フェチュインA値高値群ほど、HOMA-Rも上昇し、有意な線形性を認めた。またT検定によりフェチュインAを高値と低値に分けた2群間で比較すると、フェチュインA高値群でHOMA-Rが高値であった。 Fetuin-Aは、一般成人において、インスリン抵抗性と強く関連があることが示された。この基礎的なデータを基盤として、我々はこの451人を対象に前向きな発症調査を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は基礎的なデータとして、毎年、行っている離島での住民検診において血中フェチュインAを約500人を対象に測定した。本検診の結果から、血中フェチュインA高値は、インスリン抵抗性と関連していることを発見した。 周知の如く、インスリン抵抗性は、脳・心血管疾患の危険因子として注目されており、この基礎データに基付く将来の疾患との関連を考えるとき、やはりフェチュインA高値者は、脳・心血管疾患の発症と有意な関連があるのではないかという仮説が成り立つ。 我々は、さらに保存血清を用いて、フェチュインA測定者数を増やすことを考えており、対象者が増えることにより、より多くの脳・心血管疾患の発症者が増えると考えられる。当初の対象者は2009年と2010年の検診受診者であり、最も長い人で、3年の追跡期間が経過している。
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今後の研究の推進方策 |
血中フェチュインAには明らかに男女差があり、今後、フェチュインAと脳・心血管疾患の発症との検討を行う上で、フェチュインAと男女の性ホルモンとの関連を検討する必要があると考えられる。 そこで、我々は、本研究に新たに男女の性ホルモンの測定を考えており、現在、その項目を検討することも視野に入れている。欧米では、すでに数千人を対象にしたフェチュインAと脳卒中との関連を調べた研究があるが、本邦では未だ行われていない。そこで、この検討にさらに性ホルモンを加えることにより、メカニズムを含めた包括的な検討が可能になると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在、我々は2009年と2010年に加えて、2011年、2012年の離島検診の残血を用いてフェチュインAを測定すること、さらには、エストラジオール、テストステロン、プロゲステロンなどの性ホルモンを測定することを検討している。この4年間のフェチュインAの測定者は合計1000人となり本邦での一般住民を対象とした検診レベルでは、これまでに例のない測定数となる。 これに、性ホルモンを絡めた検討が可能になれば、我が国のフェチュインA研究に大きな進歩をもたらすと考えている。 なお、次年度繰越金使用に関しては、消耗品費として、研究に関する文具、主にデータ保存用ファイル、印刷用のコピーペーパーを考えており、さらに研究成果発表のための学会参加旅費に対する使用も検討している。
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