本研究は、我々がこれまで行ってきた原爆被爆者における造血器腫瘍の発生リスクについての疫学的知見をさらに発展させ、新たな視点からの疫学知見をもたらすことを目的とする。本研究は平成26年3月に終了予定であったが、平成25年後半に計画を拡大し骨髄異形成症候群の評価可能症例を追加する作業をおこなっために平成26年2月に研究延長を申請し、平成26年7月に解析を終了した。1.5 km以内の近距離被曝骨髄異形成症候群では、新しい造血器腫瘍分類(WHO分類)の「予後不良群」に相当する病型の頻度が有意に高く、予後予測スコアでも予後不良スコアの頻度が有意に多く、染色体異常の頻度としてモノソミー7が55%と最多であり、一般的集団に発生した症例のモノソミー7の出現頻度(10%以下)よりはるかに高かった。ただし、1.5 km以内近距離被曝骨髄異形成症候群は、白血病進展割合・全生存率・イベントフリー(白血病または死亡のない)生存率のいずれも悪い傾向にあったが、統計的有意差はなかった。多変量解析でも、被曝距離は予後予測スコアを凌駕するほどの予後不良因子ではなかった。長崎県がん登録に集積されている白血病と悪性リンパ腫症例について新造血器腫瘍分類(WHO分類)によるコード見直し作業が終了し、今後被爆者データベースとのリンケージ作業も行った。成人T細胞性白血病リンパ腫の発症をアウトカムとした後ろ向きコホート研究では、被曝距離・被爆時年齢・喫煙歴等を考慮した多変量解析において、若年被爆は有意なリスク要因であったが被曝距離は有意なリスク要因ではなかった。
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