アカントアメーバの病原性に関わる抗原蛋白質については未だ明らかになっていない部分が多く、また現在の18SrRNAに基づく病原性種の分類法は、同じ種名のものが別の遺伝子型に分類されるなど分類結果に矛盾が生じる等、新たな分類法の確立が望まれている。そこで本研究では病原性を規定する因子の同定の基礎となるデータの蓄積を目的として次の実験を実施した。 1)細胞障害性について:18S rRNA遺伝子による病原性および非病原性種について、ヒト角膜上皮細胞に対する細胞障害性を検討した。その結果、病原性種として分類されている遺伝子型T4であるA. castellani、A. palestinensis、A. hatchettiおよびA. polyphagaではすべての細胞が破壊される強い細胞傷害性が認められた。また従来は非病原性として認識されていた遺伝子型T6であるA. palestinensisにも同様に細胞傷害性が認められた。一方非病原性遺伝子型T7であるA. astronyxsisでは細胞障害性は認められ無かった。これらの結果は、現在普及している18S rRNA遺伝子による病原性の有無の分類は、角膜炎に関わる病原性を正確に反映するものでは無いものであることを示唆するものであった。 2)病原性種A. castellaniiの抗原遺伝子同定の試み:A. castellanii 50492株のcDNAライブラリーを作製した。cDNAライブラリーのタイトレーションを実施した結果、オリジナルライブラリーで2.2 x 10の6乗pfu/ml、増幅ライブラリーで6.6 x 10の9乗pfu/mlであった。このライブラリーを、A. castellanii 50492株に対するウサギポリクロナール抗体を用いてイムノスクリーニングを実施したが、陽性クローンは得られなかった。アカントアメーバは局所での寄生はするが全身感染しないため感染血清の確保が難しく、代替として用いたアメーバ破砕抗原への免疫血清ではスクリーニングに適した抗体を得られなかったことがクローンを得られなかった原因であると考えられた。
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