研究課題/領域番号 |
23590841
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
清水 惠子 旭川医科大学, 医学部, 教授 (90312462)
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研究分担者 |
松原 和夫 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20127533)
間瀬田 千香暁 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (50550555)
浅利 優 旭川医科大学, 医学部, 助教 (40360979)
大村 友博 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 特定職員 (00439035)
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キーワード | 凍死 / 低温環境ストレス / CIRP / RBM3 / 法医診断 |
研究概要 |
凍死の診断は、解剖において特異的な所見が無い為、除外診断を行い、比較的特徴的な所見及び警察の環境捜査情報によるところが大きい。本研究では、寒冷ストレス曝露による細胞死への病態生理を解明し、凍死の診断に有用な法医学的診断マーカーの開発を目的としている。寒冷刺激ストレス下では、一般に蛋白合成全体が抑制されるにも関わらず、ある遺伝子の発現が増加し、特定の蛋白合成の増加が知られている。培養細胞を用いたヒト細胞で比較的解明が進んでいる寒冷誘発RNA結合蛋白には、Cold-inducible RNA binding protein (CIRP)と、RNA binding motif protein 3 (RBM3)がある。今回、これら2つの蛋白質が、凍死診断のマーカーに成り得るか否かの検討を、免疫組織化学的方法により検討した。【方法】倫理委員会承認後、司法解剖において凍死と診断された解剖まで死後1週間以内の19事例、解剖まで死後半月以上経過した5例、死亡前後に低温環境下にあった、解剖まで死後1週間以内で、死因が凍死以外の事例10例(外因死7例、急性内因死3例)、コントロール群として死亡時常温下の10例(外因死9例、急性内因死1例)の、肝臓、肺、腎臓、心臓、大脳組織に対して、常法に従って免疫染色を行った。【結果・考察】コントロール群で2つの蛋白質は染まらず、凍死(死後1週間以内)群では、RBM3が100%、CIRPは89%で陽性であった。解剖まで死後経過時間が半月以上ある凍死群では、両蛋白質の陽性率が下がり、死後変化による抗原蛋白質の変性が示唆された。一方、死亡前後に低温環境下にあった凍死以外の事例では、外因死7例全例に、RBM3及びCIRPが染色された。これら2つの蛋白質の染色は、死亡前の低温環境ストレス曝露を推定するマーカーと成り得る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
穏やかな寒冷刺激によって、多くのヒートショックプロテイン遺伝子はダウンレギュレーションされる傾向があり、一方、RBM3及びCIRP遺伝子はアップレギュレーションされるという事実が、インビトロ(培養細胞)の実験において報告されている。昨年の実験結果より、凍死事例組織においても、同様な結果が示唆された。さらに今回、凍死(死後1週間以内)群では、RBM3の染色が100%、CIRPの染色が89%に認められたことから、凍死事例において、RBM3及びCIRPの著明な発現が確認された。培養細胞において、RBM3の発現は穏やかな寒冷(32℃)刺激初期から誘導され、寒冷曝露後6~12時間の間で最高値を示すとされている。一方、CIRP蛋白は寒冷刺激ストレス1~3時間後に検出され始め、寒冷曝露後12時間で最も発現が増加すると報告されている。今回の凍死事例組織における両蛋白質の染色結果も、その報告と一致すると考えられる。すなわち、凍死事例組織(インビボ)でのRBM3及びCIRPの染色陽性率は、インビトロ(培養細胞)での報告と一致していると考えられる。凍死(死後1週間以内)群での高い陽性率のみならず、死亡前後に低温環境下にあった凍死以外の事例10例では、外因死7例全例に、RBM3及びCIRPの染色(発現)が認められた。このことから、RBM3及びCIRPは、死亡前の低温刺激ストレス曝露の指標となることが示唆された。しかし、死亡前後に低温環境下にあった凍死以外の事例のうち、内因死3例では、RBM3及びCIRPの染色が認められなかった。この差は、生活反応の一部である蛋白質発現に必要な条件が、事例側にあったか否かの差に由来する可能性が示唆されるが、事例数を増やし、さらに検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、死亡前寒冷刺激ストレスの有無を、Cold-inducible RNA binding protein (CIRP)とRNA binding motif protein 3 (RBM3)に対する免疫組織学的染色により、推定可能である傾向が示唆された。すなわち、比較的死後変化が少ない事例に対し、RBM3及びCIRP免疫組織学的染色は、死亡前の寒冷刺激ストレス診断のマーカーに成り得る可能性があり、死亡前後に低温曝露があったか否かの死後検証に、道を開く可能性が示唆された。今後、各群の事例を一定数増やし、現段階での研究結果をまとめることで、本研究の目的であるCIRPと、RBM3に対する免疫染色が、凍死診断のマーカーに成り得るか否かの検討結果に一定の見解を示す予定である。さらに、死戦期から死後数時間低温環境下に存在した事例において、個体死の後、細胞死が完了するまでの間に生じる反応(超生反応)における、細胞の寒冷ストレス応答機序の解明への糸口を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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