研究概要 |
平成25年度における当講座における剖検例は236件であり,そのうち本年度中に脳組織標本作製ならびに観察が可能であった症例は95例であった.内訳は,男53例[平均年齢56.7±21.7(SD), min.17, max.87],女42例[平均年齢69.0±17.8(SD),min. 29, max. 96]であった.これらのうち,頭蓋内損傷を伴っていない剖検例で側脳室前角上衣下神経網損傷(SENIAH)のみられたものはなく,SENIAHと頭蓋内損傷との関連性の強さが示唆される結果となっている. 中間報告として,まず死因考察上,脳損傷が示唆された症例として,SENIAHを認めた練炭自殺の企図2例を報告した.一酸化炭素ヘモグロビン飽和度が0%であったこれら2例では,意識障害の原因が側脳室前角の組織標本作製により,回転性頭部外傷の存在が示唆された.一方,SENIAHを認めなかった高度頭蓋内損傷例で受傷機序の考察を行い,外力が頭部に対して直線的であったために,SENIAHが生じないものと判断され報告した.さらに,前後方向への強い回転加速度を伴った脳損傷例として,ヘリコプター墜落と暴行致死例について,その発生機序を考察し報告した. 症例の蓄積により,頭蓋内損傷のない剖検例では,SENIAHが認められないことが更に強く示唆されつつある.この中で,致死的頭蓋内損傷であってもSENIAHを認める例と認めない例とがあり,頭蓋内損傷や頭蓋骨骨折の程度がかなり高度な例でも同所見を認めない例を中心に考察を進めている.すなわち,当初からの「側脳室前角上衣下損傷は矢状方向への回転性頭部外傷に伴って生ずる」との仮説をより強く支持するための論拠として,頭蓋内損傷の発生機序を厳密に分析する手法によって研究を継続している.
|