研究概要 |
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)では睡眠中に無呼吸を繰り返す。その結果、低酸素性肺血管収縮(hypoxic pulmonary vasoconstriction, HPV)を生じ、肺動脈圧の持続的な上昇を毎夜繰り返すことで次第に肺高血圧として固定化すると推定されている。しかしSASにおける肺高血圧の合併頻度は20~43%程度と低く、重症度も一般に軽度である。SASを模倣した間歇的低酸素(intermittent hypoxia, IH)暴露モデルの報告でも肺高血圧、右室肥大を生じるとするものと生じないとするものが混在しており、重症度も明らかに軽度である。SD雄性ラットを4%O2に90秒間かけて暴露し、その後90秒で21%O2に戻す3分サイクルを8時間/日(午前9時~午後5時)、6週間連続で行った。その結果、IHでは肺高血圧も右室肥大も生じなかった。暴露期間終了後の尿中のカテコラミン三分画の濃度はIHで対照群に比べて著明に上昇しており、IHにおける交感神経の活性化を示した。また、IHでは血中単球が肺内に遊走してM1マクロファージに分化し、β3受容体とiNOSを高発現していることを発見した。またIHにおける交感神経の活性化はβ3受容体/iNOS経路を活性化し、M1マクロファージからのNO放出を促進していた。SPring8による肺血管造影で、このNOはHPVを高度に抑制していることが判明した。また、慢性的なβ3受容体遮断薬投与あるいはclodronateによる血中単球消失を行うと、IHで肺血管リモデリングを伴わない肺高血圧と右室肥大とを生じた。これらの結果は、IHにおける肺高血圧はHPVが主因であることを示しており、血中単球由来の肺M1マクロファージがβ3受容体/iNOS経路を介してHPVを抑制して肺高血圧の発現を抑制していることを示している。以上より、IHにおける肺高血圧の発現は単球/マクロファージによる肺血管制御に依存しており、これはSAS患者での肺高血圧の合併率に影響している可能性があることを示している。
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