研究課題/領域番号 |
23590852
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
橋本 良明 高知大学, 教育研究部医療学系, 教授 (70135937)
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研究分担者 |
古宮 淳一 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (60363280)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 心肺蘇生法 / 飲酒傷病者 / 病態病理学 / 救急医学 / マグヌス法 / アルコール / トランスレーショナルリサーチ / 薬理学 |
研究概要 |
心肺蘇生法(CPR)による心拍再開に及ぼす飲酒の影響を検討するため、法医剖検例の調査解析および動物実験を行った。1. CPR処置を経た法医剖検44例をエタノール(EtOH)の分析結果に基づき、飲酒外因死群13例(A群)、非飲酒外因死群16例(B群)および非飲酒病死群15例(C群)の3群に分類した。B群およびC群の心拍再開率はそれぞれ37.5%および26.7%であったが、飲酒者であるA群の心拍再開率は0%であった。A群の平均血中EtOH濃度は1.42 mg/gと高値であった。A群およびB群では、CPRの処置状況、外傷重症度スコアおよび心臓の病的所見の有無に差がないことから、飲酒由来のEtOHは外因性心停止患者の心拍再開に抑制的に作用している可能性が示唆された。同様な抑制的効果は外因以外の飲酒中に生じた病的心停止患者においても生じる可能性があると考えられた。2. 一時的心停止心臓の心拍再開に及ぼすEtOHの影響を検討する前提として、EtOHの心収縮力に及ぼす影響およびノルアドレナリン(NA)の心収縮力増加作用に及ぼすEtOHの影響を、ラット拍動心房を用いマグヌス法で検討した。心房収縮力は、EtOH濃度の上昇に伴って減少した。EtOH群では、NAによる収縮力の増加が濃度依存性に認められたが、その程度は対照群と同じであった。NAの心収縮力増加作用は、EtOHの心収縮抑制作用に影響されない可能性が示唆された。3. 冷温刺激により拍動を一時的に停止させたラット摘出心臓の温熱刺激による心拍再開状況を解析中である。現時点において、心拍再開率は、1時間心停止群で対照群およびEtOH群共に100%であり、6時間心停止群で、対照群では90%およびEtOH群では68%である。温熱刺激から心房拍動再開までの時間は両群でほぼ同じであるが、心室拍動再開までの時間は対照群に比してEtOH群で遅延している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飲酒酩酊中に心拍の停止した患者に心肺蘇生(CPR)がなされた場合に、摂取したアルコールがCPRによる心拍再開効果、特に心拍再開率に影響するか否かについての医学的資料はこれまでほとんど認められなかった。法医剖検例の解析結果から、飲酒が心拍停止心の心拍再開に負の影響を及ぼす可能性を確認し、国内および国外の学会で発表した。ラット拍動心房を用いたマグヌス法による動物実験では、心房収縮力はEtOH濃度の増加に伴い減少することを確認し、また、救命救急医療等で使用されるノルアドレナリンの心収縮増強作用はEtOHに影響されない可能性を示唆する結果が得られ、国内の学会で発表した。冷温刺激により拍動を一時的に停止させたラット摘出心臓の温熱刺激による心拍再開状況を解析中であるが、現時点において、我々が設定したEtOH濃度条件では、飲酒群および対照群の心拍再開率に有意な差は認められていない。温熱刺激から心室拍動再開までの時間を計測したところ、刺激伝導系機能がEtOHにより抑制される可能性を示唆する結果が得られている。今後、解析結果の精度向上のため実験データ数をさらに増やすと共に、より高いEtOH濃度条件を設定し検討する予定である。以上の研究経過は本研究目的に沿っており、順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
法医剖検例の収集解析では、心肺蘇生(CPR)を経た法医剖検例をアルコール検査結果から飲酒群と非飲酒群に分類し、各群における心拍再開率、CPR合併侵襲所見、外傷重症度および心臓所見などを分析した上で、心拍再開に及ぼすエタノール(EtOH)の負の影響について継続して検討する。さらに、飲酒群を低、中または高EtOH濃度群に分類した上で各群の心拍再開率および解剖所見等を比較し、心拍再開に及ぼす血中EtOH濃度の影響についても検討する予定である。なお、我々の施設では年間解剖数の約2~3割にCPR実施症例が見込まれる。一時的心拍停止心臓の心拍再開に及ぼすEtOHの影響に関する動物実験では、解析結果の精度向上のため実験データ数をさらに増やすと共に、これまでよりも高いEtOH濃度条件を設定し検討する予定である。EtOHが一時的心停止後に心拍再開した心房の収縮力に及ぼす影響に関するマグヌス法を用いた実験では、急性または慢性EtOH投与ラットから摘出した拍動心臓を冷温刺激により一時的に心停止させた後、温熱刺激により心拍再開した心臓から心房を切除し、マグヌス装置に取り付けて行う。研究実施計画に沿って実験を行うが、EtOHの慢性投与方法は動物へのストレスを最小限にするため経口投与で実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の計画に基づく経費は、予定通り全額を使用した。なお、平成23年3月に使用した経費の支払いは、平成24年4月に執行予定である。次年度の研究は、当初の計画通り進める予定である。
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