研究課題/領域番号 |
23590852
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
橋本 良明 高知大学, 教育研究部医療学系, 教授 (70135937)
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研究分担者 |
古宮 淳一 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (60363280)
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キーワード | 心肺蘇生法 / 飲酒傷病者 / 病態病理学 / 救急医学 / マグヌス法 / アルコール / トランスレーショナルリサーチ / 薬理学 |
研究概要 |
心肺蘇生(CPR)を経た法医剖検54例(A群:飲酒外因死11例、B群:非飲酒外因死22例、C群:非飲酒病死21例)の解析結果では、B群およびC群の心拍再開率はそれぞれ40.9%および23.8%であったが、飲酒者であるA群の心拍再開率は0%であった。A群の平均血中エタノール(EtOH)濃度は1.39 mg/gと高値であった。A群およびB群では、外傷重症度スコアおよび心臓の病的所見の有無に差がないことから、飲酒由来のEtOHは外因性心停止患者の心拍再開に抑制的に作用している可能性が改めて示唆された。同様な抑制的効果は外因以外の飲酒中に生じた病的心停止患者においても生じる可能性があると考えられる。 ノルアドレナリン(NA)の心機能促進作用に及ぼすEtOHの影響について、ラット拍動心房を用いマグヌス法で検討した。心房の収縮力および心拍数は、対照群およびEtOH群共にNA濃度依存性に増加し、両群で差はなかった。β受容体を介したNAによる心房機能促進作用は、EtOHに影響されない可能性が示唆された。 低温曝露により心拍を停止させたラット摘出心臓の再加温による心拍再開に及ぼすEtOHの影響に関する実験では、実験データ数の増加と共に、より高いEtOH濃度条件を設定して検討を行った。心拍再開率は、1時間心停止群では対照群およびEtOH群(1, 3, 4 g/kg)共に100%であったが、6時間心停止群では対照群81.3%に比してEtOH 4 g/kg群42%と有意に低値であった。再加温開始から心房および心室が最初に拍動を開始するまでの時間をそれぞれ計測し、両者の時間差(ΔT)を比較したところ、6時間心停止群のΔTはEtOH濃度依存性に延長しており、対照に比して有意差が認められた。刺激伝導系を介した心拍再開にEtOHが抑制的な影響を及ぼしている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飲酒が心拍停止心の心拍再開に負の影響を及ぼす可能性について指摘した我々の法医剖検例調査解析結果は、症例数が増加しても同じ傾向であり、医学的根拠資料としての意義がより高まったと考える。また、機序解明のための動物実験では、エタノール(EtOH)が刺激伝導系を介した心拍再開に抑制的な影響を及ぼしている可能性を見出した。以上の研究経過は、飲酒心停止患者に対する心肺蘇生(CPR)医療において心機能改善に資するための医学的根拠資料を明らかにする本研究目的に沿っており、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
法医剖検例の収集解析では、心肺蘇生(CPR)を経た法医剖検例をアルコール検査結果から飲酒群と非飲酒群に分類し、各群における心拍再開率、CPR合併侵襲所見、外傷重症度および心臓所見などを分析した上で、心拍再開に及ぼすエタノール(EtOH)の負の影響について継続して検討する。現在、飲酒群は全11例と未だ少数であるが、飲酒群を低、中または高EtOH濃度群に分類した上で各群の心拍再開率および解剖所見等を比較し、心拍再開に及ぼす血中EtOH濃度の影響を検討するために、今後さらなる症例数を蓄積する。 これまでの動物実験から、心拍再開に及ぼすEtOHの負の影響に関する機序の一つとして、EtOHが刺激伝導系を介した心拍再開に抑制的な影響を及ぼす可能性を見出しており、この機序をより詳細に解明するために申請した実験計画に沿ってさらに検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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