研究課題/領域番号 |
23590854
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
瀬尾 泰久 大分大学, 医学部, 助教 (80187830)
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研究分担者 |
岸田 哲子 大分大学, 医学部, 教授 (50136793)
内田 智久 大分大学, 医学部, 助教 (70381035)
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キーワード | 溺死 / 血液 / 硅藻 / プランクトン / DNA |
研究概要 |
カオトロピックイオン存在下で硅藻被殻がDNAと結合するという特性を利用した、心臓血からの硅藻検出法について検討した。血液中に含まれる硅藻を、血液からゲノムDNAを抽出する手順に従って、DNAに吸着した状態で回収しようという発想である。そこで、司法解剖時に溺死した死体及び溺死以外の死因によって死亡した死体の心臓から血液を採取した。溺死した死体の一部では、左右の心室から別々に採取したものを試料とした。 血液は、純水によって7倍量に希釈した後、遠心によって不溶成分を回収した。比重の重い硅藻は、このとき不溶成分と共に回収される。次いで、血球膜等の不溶成分を可溶化するため、同じく7倍量の2.5%SDS溶液を添加し、遠心によって沈渣を得た。この沈渣をDNA抽出キット(DNAエキストラクターFMキット)に添付された試薬をを使ってプロテアーゼKと共に溶解後、終濃度2Mになるようにカオトロピック剤(グアニジンチオシアン酸塩)を加えた。その後、常法に従って、イソプロパノールを添加しゲノムDNAを抽出した。このとき、血液中に含まれる硅藻は、DNAに吸着した状態で回収される。ゲノムDNAをDNaseで分解後、プレパラートを作製し、検鏡した。 その結果、溺死した死体の心臓血5mlを使うと、すべての例(22例)で硅藻が検出され、平均で7.8個であった。また、左心室の血液から検出された硅藻数(平均6.1個)は、右心室のものより約2倍多かった。溺死以外で死亡した死体の血液からは、9例中3例で1個の硅藻が検出された。この事実が何を物語るかは、今後動物実験などを通じて明らかにしていく必要があるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溺死の診断を目的とした死体の血液からの硅藻検出法については、これまで様々な研究機関で試みられてきた。しかし、高濃度に存在する血液成分が妨げとなり、顕微鏡的な観察が困難であること多いことから、広く実用化するまでには至っていないのが現状である。本法は、血中の硅藻を通常実施されるゲノムDNAの抽出法を使って精製する方法を提供するものであり、今後の実用化が期待される。また、早ければ数時間で溺死の診断が可能となるため、診断の迅速化に貢献できるものと考えられる。 さらに、本法は採血した血液などにも適応できるので、長い間議論のあった、摂取した食物由来の硅藻の血中への移行などについて経時的な採血実験を行うことが可能であるばかりでなく、動物実験を通じた溺死の病態解明などについても今後の応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度として、硅藻被殻に結合したDNAを染色することによる検出法の完成を目指す。DNAをコーとしたマイクロタイタープレート上で硅藻被殻をトラップし、ビオチン標識DNAフラグメントや蛍光標識したDNAフラグメントで検出するサンドイッチ法の開発を試みる。 また、前年度開発したビーズを使った硅藻の精製法が、これまで生物学の分野で行われてきた被殻のクリーニング法より優れいる可能性が指摘されているので、今後、生物学の分野での応用の可能性についても検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
硅藻被殻を染色するのに必要な、プレート、プライマーの合成、標識酵素、基質等の消耗品類の購入を主とする。 最終年度のため、論文校正費等を必要とする。
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