本研究は、覚醒剤濫用者において、1)神経毒性によるアルファシンヌクレイン(α-synuclein)の病理学的変化(synucleinopathy)、2)薬物依存の形成におけるエピジェネティックなメカニズム、3)上記のデータから、「神経毒性」と「薬物依存」との相互関係を解析する。本研究から得られた成果により、覚醒剤濫用による中神経系障害の法医病理学的診断の精度向上を目指すものである。 薬物依存の形成におけるエピジェネティックなメカニズムの検討において、覚醒剤濫用者の剖検脳を試料としてメチル化されたDNAに結合する転写因子であるmethyl CpG binding protein 2 (MeCP2の免疫組織化学的染色(ICH)を行ったところ、陽性像を認めた。さらに、MeCP2により発現が促進され、メタンフェタミンによる神経毒性に対する防御的な役割を果たす神経栄養因子(brain-derived neurotorophic factor ; BDNF)についてもIHCにより発現することは明らかとなった。 以上のことから、覚醒剤濫用者の法医病理学診断において、これまでに発表した酸化ストレスに加えて、薬物依存のメカニズムを検索することが有用であることが明らかとなった。また、覚醒剤濫用者においてはグリオーシスを認めないことを明らかにしてきたが、神経細胞障害へのBDNFによる防御的役割が関与している可能性が示唆された。
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