研究課題
[目的] 認知症の高齢者は、健常者と比較して転倒傾向があるという報告や、アルツハイマー病では健常者と比較してバランス障害が存在するという報告がある。転倒骨折によるQOLの低下は、認知症の進行にも著しく悪影響を与えるため、易転倒傾向の原因究明が重要となる。今回はアルツハイマー病のバランス機能について調べるために温度眼振による前庭機能検査を用いて検討した。[方法] アルツハイマー病群(AD群)12名と、非認知症高齢者群(コントロール群)12名を比較した。温度眼振の前庭刺激はエア・カロリック装置を用い、visual suppression(VS)testにおける眼球運動を電気眼振計に記録した。誘発された眼振のパラメータとして振幅(急速相および緩徐相)、平均速度(急速相および緩徐相)を計測した。VSの障害は、固視による眼振の抑制率、VSの抑制率(SR)で表すことができ、定量的評価が可能である。VS障害は半規管や前庭神経などの末梢前庭の影響は受けず、中枢神経障害で出現する。[結果] 温度眼振検査においてVS test前における急速相と緩徐相それぞれの振幅および平均速度は全て有意差が認められず、一方SRはAD群で有意に小さくなった。[結論]VS test前パラメータには問題は無く、AD群では末梢および小脳・脳幹機能が保たれていることが推測された。よってADにおけるVS障害は、前庭神経回路の中でも大脳の前庭中枢障害によるものが考えられた。つまりADにおいては、前庭神経核を含む末梢前庭系の機能が代償によって保たれる反面、大脳前庭中枢のレベルで前庭系の調節機能が障害されることが、バランス障害に寄与していることが推測された。将来的にカロリック前庭刺激を応用し、ADの中枢性前庭障害のリハビリテーションの提案につなげたい。この転倒予防への取り組みは認知症の進行予防対策にも重要となるだろう。
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