研究課題/領域番号 |
23590873
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
渡辺 志朗 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 准教授 (00222406)
|
研究分担者 |
常山 幸一 富山大学, 医学薬学研究部(医学), 准教授 (10293341)
|
キーワード | コレステロールエステル / トランスアミナーゼ / コール酸 / 肝傷害 / エイコサペンタエン酸 |
研究概要 |
平成24年度においては、マウスに対してコール酸添加高脂肪食(HFCA食)を摂取させたときに誘導されるコレステロールエステル(CE)の顕著な蓄積を伴う脂肪性肝炎様症状に及ぼす防已黄耆湯(BOT)の影響を検討した。HFCAの摂取によって誘導される血清ならびに肝臓中のCE濃度上昇、ならびにリピドミクス解析から得られた各種脂質中の脂肪酸構成の変動に対しては、BOTの投与は有意な影響を及ぼさなかった。しかしながらHFCA摂取よって誘導される肝炎マーカーである血清トランスアミナーゼ活性の上昇は、BOTの投与により有意に抑制された。一方、HFCA食による血清ならびに肝臓におけるCE濃度の上昇は、脂質低下剤であるエイコサペンタエン酸(EPA)エチルエステル投与によって明らかに抑制されたが、肝炎症状は逆に悪化することも判明した。それ故、HFCA食によって誘導されるCEの蓄積は、これに伴う肝炎の増悪因子ではないと判断できた。また、HFCA食中に添加されている脂肪は、肝臓への脂質の蓄積を促進するために添加されているが、別の予備的検討から脂肪を添加しないコール酸のみを添加した飼料によっても、肝臓へのCEの蓄積と肝炎症状が誘発されるとも判明した。すなわちコール酸の投与のみでも、マウスに脂肪性肝炎様症状を誘導できるといえる。そこでこのコール酸添加食を摂取させたマウスに対するBOTの影響を引き続いて検討した。マウスにコール酸のみを添加した飼料を与えた場合に誘導される血清トランスアミナーゼ活性の上昇は、同様にBOTの投与によって有意に低下することがわかった。以上の結果から、BOTにはコール酸の直接的な肝細胞傷害作用を防御する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23および24年度において防風通聖酸、防已黄耆湯ならびにエイコサペンタエン酸が、コール酸添加抗脂肪食によって誘導される脂肪性肝炎様症状に対する影響を検討してきた。当初の研究計画では、肝臓への脂質、特にコレステロールエステル(CE)の蓄積が起点となり、肝傷害へと進展すると考えていたが、これまでの2年間に得られた研究結果から、肝臓へのCE蓄積は肝炎の原因ではないと考えるに至った。すなわち、HFCAによって誘導される脂肪性肝炎モデルにおける肝臓へのCEの蓄積と、肝傷害の進展に関しては、別に分けて研究を行っていく必要がある。しかしながらこれらは新しい知見であり、また上記漢方方剤の本モデルおける肝傷害に対する作用の差異に関する重要な示唆が得られたことから、今後の研究の方針の変更が必要となってきたものの、本研究結果の意義は高いと考えている。それ故現在までの研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
HFCA食によって誘導される脂肪性肝炎様症状の発症において、肝臓へのCEの蓄積や肝傷害の発症には脂肪負荷よりは、コール酸の添加が重要な役割を担っていることがわかった。またコール酸によって誘導される肝炎症状に対して防已黄耆湯の投与が改善作用を示すことが判明したことから、この機構の解明に関する研究を次年度に追加する。すなわちコール酸のみを添加した飼料によって誘導される脂質代謝の変化ならびに肝傷害に対する影響を評価する。一方当初から計画していた大柴胡湯の影響については、これまでの研究結果を踏まえて、その漢方方剤が肝臓へのCEの蓄積と肝炎症状に対する影響とを分けて検討できるような実験計画を立てる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
最終年度(平成25年度)においては、防已黄耆湯がコール酸のみによって誘発される肝傷害に対する影響の評価のために研究経費を使用する。また当初の研究計画において評価を予定していた大柴胡湯の影響に関しては、1)高脂肪によって誘導される脂質代謝と、2)コール酸によって誘導される肝傷害に及ぼす影響の2点について、別の実験を行う予定である。このように当初の研究計画よりも検討する内容が若干増えたが、平成24年度において若干の研究経費の余剰は生じた分を最終年度の計画に充てることで、上記の計画を推進することができると考える。
|