認知症の主な原因であるアルツハイマー病の羅患率は急速に上昇しており、病態の解明と有効な治療法の開発が急務となっている。神経に着目した研究が先行しているが、病態の解明には至っていない。我々は、脳神経のみならず全身とのクロストークを持つ脳血管に、病態解明の新しい手がかりがあると考え本研究を立案した。特に、脳血管の微細構造変化・機能変化を捉えることを主目標とし、研究を開始した。 生後8ヶ月のAPP23マウス(アルツハイマー病のモデル)では、明らかな記憶障害が見られ、組織学的解析にて海馬微小血管密度が約50%に減少していることを発見した。24ヶ月齢になると微小血管密度は約20%とさらに減少していた。透過電子顕微鏡にて解析したところ、APP23マウスの脳微小血管内皮では、オートファジーが誘導されていた。誘導部位を高倍率で観察したところ、細胞間タイトジャンクションが著名に拡大していることも発見した。脳微小血管内皮におけるオートファジー誘導が、血液脳関門に影響を与えている可能性もある。脳微小血管内皮のオートファジー誘導は、APP23マウスの海馬のみならず大脳皮質の微小血管にも見られ、周囲の神経細胞においても確認できた。LAMP2抗体による免疫染色を行ったところ、オートファジーが誘導された脳血管内皮、神経細胞に染色陽性部位が一致していた。LAMP2陽性部位は円状で斑点様であることから、脳血管が多数分岐している末梢血管・微小血管部位にLAMP2陽性円形部位が一致するものと考えられた。 アルツハイマー病における脳血管内皮の微細構造変化を捉えることができた。脳微小血管内皮の細胞レベルでの変化、特に細胞内オートファジーカスケードの関与が明らかになった。オートファジー進展にともない脳血管内皮の再生能が低下することも明らかになった。アルツハイマー病の新しい治療につながる重要な知見を得た。
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