研究課題/領域番号 |
23590882
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
山内 美香 島根大学, 医学部, 助教 (40379681)
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研究分担者 |
杉本 利嗣 島根大学, 医学部, 教授 (00226458)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 骨粗鬆症 / 日本 / 島根県 |
研究概要 |
骨粗鬆症健診を実施し、健診受診者のうち本研究に対して同意の得られた閉経後女性211名を対象に統計学的検討を行った。LDLコレステロール(LDL-C)、HDL-C、中性脂肪は、骨代謝マーカー、骨密度のいずれとも相関を認めなかった。骨折の有無での検討において、HDL-C、中性脂肪は差を認めなかった。一方、LDL-Cは椎体骨折の有無で差を認めなかったが、非椎体骨折では骨折有群で有意に高値を示した。さらにロジスティック回帰分析にて、年齢、BMI、骨吸収マーカー、大腿骨頚部骨密度、脂質治療薬の有無で補正後もLDL-C上昇は有意な非椎体骨折のリスク因子として選択された。閉経後女性においてLDL-C高値が骨代謝マーカーや骨密度とは独立した非椎体骨折のリスク因子であることを明らかにした。高LDL-C血症は骨-血管相関に関与する因子のひとつである可能性が示唆された。さらに、我々はこれまでにビタミンD不足つまり、25位水酸化ビタミンD[25(OH)D]低値が骨粗鬆症性骨折のリスク因子であることを示してきたが、LDL-C高値による骨折リスクは25(OH)Dとは独立したものであることも明らかにした。 基礎実験ではMC3T3E1マウス骨芽細胞様細胞を用いて、酸化LDL-Cが骨芽細胞増殖、分化および石灰化に影響を及ぼすかを検討した。増殖能は細胞数カウントとBrdUアッセイ、石灰化はvon Kossa染色、Arizarin Redにて検討を行ったが、有意な影響を認めていない。酸化LDLには様々な種類があるため、種類をかえ、再度検討予定である。 臨床検討にてLDL-Cが骨脆弱性に関わることを示しため、今後基礎実験にてその機序の一部を明らかできる可能性を考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床検討において、日本人の閉経後女性ではLDL-C高値が非椎体骨折リスクとなりうることを横断的検討で初めて明らかにした。さらに、LDL-C高値は骨密度や骨代謝マーカーのみならず、25(OH)Dとは独立した危険因子であることを世界に先駆け明らかにすることができた。LDL-C高値はこれまでに骨粗鬆症のリスク因子であるとされるものとは全く異なるリスク因子であり、かつ臨床上容易に測定できる検査法であるため、今後の骨粗鬆症診療に有用な臨床指標確立につながる成果であると考えている。 基礎研究では、LDL-Cが骨脆弱性におよぼす影響の機序の一つとして、骨芽細胞分化、石灰化に影響するのではないかと考え、検討を進めているが、現在のところそれを示す明らかな結果は得られていない。さらに実験細胞や使用する酸化LDLを変更して検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
臨床検討では、1回目の健診から1年以上経過した例について2回目の健診を実施しする。縦断的検討に値する例数になれば、新規骨折発生のリスクへのLDL-Cの関与について縦断的統計解析を行う。さらに、近年、新たな骨質マーカーとしての可能性が示唆されているスクレロスチンや、骨細胞が分泌するFGF23がLDL-Cによる骨脆弱性に関わっていないかどうかを検討する予定である。 基礎検討では、これまでに引き続き、MC3T3E1マウス骨芽細胞様細胞を用いて、LDL-Cが骨芽細胞増殖、分化および石灰化に影響を及ぼすかを検討する。酸化LDL-Cには様々名種類があるため、種類を変え検討を予定している。また、未分化間葉系細胞ST-2細胞を用いて、LDL-Cの骨芽細胞分化能への影響を検討する。さらに、これらLDL-Cの影響がメバロン酸経路の情報伝達機構であるBMP-2、AMP kinaseのリン酸化やRho kinase活性を介するかをRT-PCR、Western blot法で検討する。加えて、骨形成に重要な細胞内情報伝達機構のWnt-βカテニン系の関与について、Smad 3発現やTGF-βreceptor type 1阻害剤を用いた抑制実験にて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度に統計解析ソフトPASW Statistics Base(旧SPSS)の購入を予定していたが、1年目は横断検討のみであり、これまでに所有していた統計解析ソフトで検討可能であったため、購入しなかった。このためこの金額が残金として残った。H24年度は縦断的検討も行うため、その検討に必要な統計解析ソフトPASW Statistics Baseの購入を予定している。研究経費は主に、これまで測定してきた骨代謝マーカー、25(OH)Dなどに加え、スクレロスチンやFGF23などを当実験施設で測定するために必要な試薬や、細胞実験のための試薬、実験器具などの消耗品の購入にあてる。また、通信費は縦断検討を効率よく実施するために、被験者への2回目以降の骨粗鬆症健診の案内発送に用いる。また、各学会学術集会で成果発表を行うためこれらの学会発表のための旅費、論文発表のための費用を計画している。
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