研究課題/領域番号 |
23590885
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
前田 豊樹 九州大学, 大学病院, 准教授 (30264112)
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研究分担者 |
牧野 直樹 九州大学, 大学病院, 教授 (60157170)
小柳 雅孔 九州大学, 大学病院, 助教 (00325474)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | テロメア / 老化 / 環状DNA / 白血球 / 血管内皮細胞 |
研究概要 |
申請者は、様々な疾患の患者における白血球やストレス環境下の培養血管内皮細胞で老化関連のゲノム変化であるテロメアの短縮について解析を進めてきている。さらにテロメア短縮に平行して生じるテロメア環状DNAを検出して、細胞の老化の過程をほぼリアルタイムで追跡することを試みている。ヒト末梢血ならびに培養ヒト血管内皮細胞についてRolling Circle Amplification (RCA) 法により、テロメア由来の環状DNAの増幅を行い、サザン法により半定量的に捉える方法を取った。これまでで浮かび上がってきた問題点として、以下の二つが上げられる。(1) テロメア環状DNA量は、バラツキが大きく一定の結果が得難い。つまり同じ条件で培養された細胞群でも、また特定の個人の同一サンプル解析でも、異なる量のテロメア環状DNAが検出され、ほかの老化関連パラメータとの相関を検証できるに至っていない。また、(2) 環状DNAサンプルには、テロメア環状DNA以外の染色体ゲノム由来の環状DNA多く含まれ、その多くは反復配列を含んでいた。一方、テロメア長解析においては、培養ヒト血管内皮細胞を用いた実験で、DNA障害性の細胞刺激因子として低線量X線照射で処理した場合と過酸化水素添加の処理を行った場合で、細胞が障害される程度は、X線照射では、短いテロメアが減少する傾向、すなわち老細胞の減少傾向がみられたが、過酸化水素添加では、生理的な老化性変化に近く、長さによらず細胞集団全体に一定のテロメア短縮傾向を示した(いずれも投稿中)。このように、細胞に対するストレスの違いによって、影響を受けるテロメア長のウインドウが変化することが判明した。このことは、単に平均テロメア長の短縮やテロメア環状DNAの増加といった定量的側面の追跡だけでは、細胞の老化性変化の内容を追跡するには不十分ではないかと考えるにいたっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまで、生活習慣病患者の臨床検査値やパーキンソン病やアルツハイマー病といった慢性疾患患者におけるテロメア変化の性差を論じた論文を報告してきた。同疾患でも性別によってテロメア長分布が全く異なる事象を報告したが、性別によるテロメア長変化の差を特定の疾患で認めたことは、新知見である。こういった、長いテロメア変化と短いテロメア変化に対応するテロメア環状DNAの量と長さの検出を試みた。環状テロメア量は、バラツキが大きく一定の傾向を認めなかった。また、環状テロメアの長さは、RCAでは求められないため、環状DNA分画をサザン法で検出して比較することを試みたが、環状テロメアが微量なため検出できなかった。 同様に、投稿中の培養ヒト血管内皮細胞のテロメア長分布変化すなわち、短いテロメアが減少する低線量X線照射と長いテロメアが減り短いテロメアが増える過酸化水素添加において、RCA法にて、それぞれ環状テロメアDNA量の定量比較を試みた。患者白血球サンプルの場合よりも、単位ゲノムDNA量に比べ、シグナルが強く、培養細胞では環状テロメア量が増加している傾向が見られたが、X線量や過酸化水素濃度との相関は捉えられなかった。 これまでの実験の環状テロメア量のバラツキには、環状DNA分離の際の染色体直鎖DNAの夾雑と染色体内部の存在するテロメア類似配列由来の環状テロメアDNAによる可能性を推定している。テロメア環状DNA群には、このような末端由来でなく内部由来の環状テロエアDNAが混在している可能性も否定できない。これまでのところ、各種細胞のテロメア長とその分布解析は比較的順調に進んでいるが、上記のような問題から、環状テロメア量との相関を確認できていないのが現状である。以上を総括すると、当初の予定の50%程度の達成率と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまで通りヒトの各種慢性疾患におけるテロメア長とその分布の変化の解析を進め、どの程度老化促進と評価できるものか解析して報告して行く。そして、疾患の重症度に応じてテロメア変化が変化するのかを症例と培養実験の両方で検証することを進めて行く。 さらのこの裏付けとして、テロメアの短縮の際に生じると考えられる環状テロメア量を正確に測定し、疾患の重症化や培養細胞に障害性因子を作用させた際に、相関性増加を認めるかを確認する方法の構築をこれまでの問題点を踏まえて模索して行く。環状DNAの純度を十分に高める必要がある。染色体末端側に伸びるプライマーの設定により、少量の染色体残存は問題にならないものと考えていたが、染色体内部にテロメア類似の配列があることにより、そこから生じる直鎖状染色体DNA由来のRCA産物が混入した場合、環状テロメアDNA量の定量性が損なわれることになる。また、テロメア以外の反復配列を含む環状DNAが環状DNAサンプルに比較的多く含まれることから、一部はテロメア類似配列を含む配列から生じている環状DNAが存在して定量性を損なわせる要因の一つになっている可能性も否定できない。 これらの可能性をできる限り小さくする目的で、テロメア内に制限酵素切断部位がないことを利用して、複数の種類の制限酵素でサンプルを処理して染色体DNAを短く分断しておく。その上で直鎖状DNA特異的なエキソヌクレアーゼ処理を十分行い環状DNA分画を得る。RCA法で増幅してサザン法で環状テロメアDNAを検出する。ミトコンドリアなども切断されて除かれるため、環状DNA全体の量を反映する内部標準が取れないのが難点であるが、元々の試料のゲノムDNA濃度に対する比で相対的な環状テロメアDNA量を求めることができるものと考えられる。これを試行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
使途は概ね応募書類に示した支出明細に準じたものとなる。サンプルとなる培養細胞の準備に、基本的な培養用材料(培地、牛血清、抗生剤など)が必要となる。 また、培養細胞では、細胞老化の評価や老化細胞の表現型を解析するのに各種マーカー蛋白の発現を酵素反応やウェスタンブロット法にて検出するための実験材料費用も必要となる。そして、ヒトサンプル、培養細胞サンプルから、サンプルに含まれる全DNAを抽出し、環状DNA分画抽出、Rolling Circle Amplification反応、PCR反応、ゲノムあるいは環状DNAサザンのための消耗品(一般試薬、酵素類、泳動ゲルなど)に費やされる。 これらの実験の研究補助員に対する謝金を支給する予定である。また中間段階で一定の知見が得られれば、学会発表を行って行く予定であるが、その場合、研究費の一部を出張旅費として使用する。
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