研究課題
Apoptogenic Protein (Apop)はミトコンドリアに存在するタンパク質であり、筆者らによって動脈硬化プラークで発見された。Apopを発現した細胞はアポトーシスを起こし、逆にApop遺伝子の発現を抑制した細胞では生存率が上昇する。本研究の目的はApopが細胞および個体の老化に関与していることを明確にすることである。 心筋特異的にApopを欠損したコンディショナルKOマウスを得るためApop遺伝子がLoxP配列にはさまれたマウスと心筋特異的Cre発現マウスの交配を行い、心筋特異的なApop欠損マウスを得た。このマウスの心臓に虚血再還流を施して有用な知見を得た。この結果はApop遺伝子発現が心筋梗塞治療後に発症する心不全に関わる可能性を示している。 Apop遺伝子の発現をノックダウンした培養血管内皮細胞においては活性酸素種(ROS)産生の増加が見られた。高血糖条件下で培養した正常細胞においてもROS産生増加が見られたが、Apopノックダウン細胞を高血糖条件下で培養してもROS産生増加は見られなかった。この結果はApop遺伝子の抑制が高血糖条件下と同様な機構でROS産生を誘導していることを示しており、糖尿病による血管障害がApop遺伝子制御によって軽減できることを示唆している。またApopノックダウン細胞ではbeta-galactosidase発現が認められ、細胞老化が進行していることが明らかになった。以上より、Apop遺伝子が個体老化の原因ともなる血管老化に関係していることが明らかとなり、老化抑制のための標的遺伝子として有用であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
Apoptogenic Protein (Apop)遺伝子の発現はアポトーシスを誘導するが、これはApopが有している機能の一部であると考えられている。本年度の研究においてApop遺伝子の発現を抑制した細胞では老化関連beta-galactosidase活性が亢進することから、Apopは細胞老化にも関わっていることを明らかにできた。本研究の目的であるApop遺伝子発現と老化の関連を細胞レベルで明らかにできたことによって本研究は大きく前進したと思われる。老化した血管内皮細胞では機能が低下しているものと予想される。Apop遺伝子抑制した内皮細胞では内皮機能の一つであるeNOS(内皮型NO合成酵素)発現も低下しており、老化とともに機能も低下していることを明らかにできた。老化を促進する因子として知られている活性酸素種(ROS)が知られているが、ROS産生をFACS解析によって定量的に解析し、Apop遺伝子抑制がROS産生を増加させていることも明らかに出来た。Apop欠損(KO)マウスにおいては寿命が変化していることが予想される。寿命測定に必要な多数のマウスを同時に得るためKOマウスから採取した精子ならびに卵子による体外受精を行い、必要数のKOマウス産仔を得ることに成功した。また本年度の研究の目標のひとつであるApop遺伝子を心筋細胞でで特異的に欠損したコンディショナルノックアウトマウスの作製に成功した。
Apoptogenic Protein (Apop)遺伝子発現が細胞ならびに個体の老化に関与していることを明らかにするための研究を継続して遂行する。細胞およびマウス個体を用いた解析を行う。本年度はsiRNAによってApop遺伝子発現を抑制した細胞を用いた研究で多くの有用な知見を得たが、来年度はApop遺伝子欠損(KO)マウスの表現型解析に特に重点を置いた研究を行う。高齢者の代表的な疾患である心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化発症とApop遺伝子発現の関連を解析し、発症予防の可能性を追求する予定である。また国内あるいは海外の学会で研究成果の発表を行う予定である。 次年度に使用する予定の研究費があるが、これは本年度実施予定の血管内皮機能の解析が研究結果を踏まえて解析手法の見直しが必要となったため、本年度は手法の再考期間とし、詳細な解析は来年度に実施することになったためである。次年度においては血管内皮機能解析とともに血圧解析も合わせて行う予定である。
次年度の研究を推進させるために必要な設備として、熊本大学総合研究棟の蛍光顕微鏡、遠心機および超遠心機、活性酸素種の定量的測定のためのFACSが使用可能な状況にある。また遺伝子発現解析のための電気泳動関連機器、培養細胞観察のための位相差顕微鏡、ならびに染色組織観察のための蛍光顕微鏡が利用可能である。また培養細胞におけるApopならびに代謝関連遺伝子等の発現解析のためにはReal Time PCRを用いて定量的な解析を行うが、そのためにBioRad CFX384 Real-Time Systemが使用可能であり、必要な施設・設備はすべて使用可能な環境にある。したがって新たな機械、設備をそろえる必要性はなく、研究経費は消耗品費を中心に利用される。必要な消耗品として各種の試薬類のほか、免疫組織科学のための抗体、遺伝子多型解析のためのプライマー、血管平滑筋細胞を培養するための細胞培養用品があげられる。消耗品のなかには組織解析のための染色キット、遺伝子発現解析、転写制御因子の解析等のための各種の実験キットも含まれる。
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