黄色ブドウ球菌は、様々な菌体外毒素を分泌し、様々な重症感染症を引き起こす病原細菌である。この中で特に問題となるのが多剤耐性を示す黄色ブドウ球菌(MRSA)であり、新規治療薬の開発が望まれている。排膿散及湯は江戸時代の漢方医吉益東洞の作成した吉益東洞経験方に記載のある処方である。この排膿散及湯の適応疾患が、MRSAを含む黄色ブドウ球菌による化膿性感染症疾患に一致するため、排膿散及湯がMRSA感染症治療薬となりうることが予想される。 前年度までに我々は排膿散及湯のMRSA重症感染症に対する効果について、排膿散及湯の直接的な抗菌効果、排膿散及湯の菌体外毒素分泌の抑制効果、排膿散及湯投与マウスのMRSA感染に対する影響について検討を行ない、排膿散及湯を添加したLB液体培地では、無添加培地と比較して、菌体外毒素の量が減少していたことや、排膿散及湯投与マウスでは、無投与マウスと比較して、生存率の上昇、皮膚潰瘍径の減少することを確認した。今回排膿散及湯マウス由来の腹腔内マクロファージを抽出して、MRSAと共培養し、60分後の混合サンプルを寒天培地にまき、24時間培養後に、菌のコロニー数を計測することで、腹腔内マクロファージの貪食能の効果を検討した。コントロールマウス由来の腹腔内マクロファージと比べて、排膿散及湯マウス由来の腹腔内マクロファージでは、有意に共培養したMRSAのコロニー数が減少したことから、排膿散及湯マウス由来の腹腔内マクロファージの貪食能が上昇していることが示唆された。このことから排膿散及湯は、細菌の菌体外毒素を減少させるだけでなく、宿主の免疫担当細胞を活性化することで、複数経路からの重症細菌感染症に対する治療効果を上昇させていると推測された。
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