研究概要 |
Helicobacter pylori (H. pylori) 感染による胃炎発症にはサイトカインが関与することをわれわれはすでに報告している。昨年度までの研究により、マウス感染モデルを用いてサイトカインの役割を検討した結果、H. pylori 感染後のマウス胃粘膜においては、ヒトと同様、IL-1, IL-6, IFN-gamma, TNF-alphaなどの炎症性サイトカインが産生されていること、また、これらTh1サイトカインに加え、新規のサイトカインであるIL-17も有意に産生されていることを明らかにした。そこで、今年度はマウス胃粘膜より粘膜上皮細胞の初代培養を実施し、H. pylori刺激後に誘導されるサイトカイン遺伝子の発現変動をマイクロアレイ法により網羅的に解析した。その結果、正常マウスより樹立した初代培養胃粘膜上皮では、IL-1beta およびTNF-alpha遺伝子などの有意な発現増強が確認された。また、IL-17A遺伝子欠損(KO)マウスからも同様に粘膜上皮細胞の初代培養を実施したが、正常マウスとは異なるサイトカイン発現の動向を示すことを確認した。一方、薬剤耐性H. pylori 感染に有効である漢方薬あるいは生薬を補完・代替療法に応用することを目的に、昨年度までの研究において、マウスに薬剤耐性H. pylori を感染させると同時にオウレン、インチンコウ、チョウジ、カンゾウを経口投与すると、有意な抗菌効果が認められたことを報告したが、今年度は、薬剤耐性H. pylori 感染成立1か月後にこれらの生薬の経口投与による治療実験を試みた結果、オウレン、チョウジ、カンゾウに有意な胃内菌数の減少ならびに胃炎発症抑制効果が認められた。以上の結果、薬剤耐性H. pylori 感染症の補完代替療法として、生薬および漢方薬は有用であることが示唆された。
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