研究課題
生体を防御し、治癒機構を促進する漢方方剤には複数のものがあり、これらは補剤と呼ばれる。補剤の代表的な方剤である補中益気湯は、黄耆、人参、柴胡など10種類の生薬から構成され、虚弱体質の改善や薬物療法・放射線療法の副作用軽減の目的など幅広い領域で用いられてきたが、酸化ストレスをともなう慢性の皮膚疾患治療においても併用効果が臨床的に経験されている。なかでも、虚弱体質をともなうアトピー性皮膚炎に対する補中益気湯の併用効果については二重盲検法により臨床的に明らかにされており、その詳細な作用メカニズムの解明が待たれていた。皮膚は、紫外線照射などの酸化ストレスにより機能が低下し、角層カタラーゼ活性系にも影響が及ぶことが知られている。皮膚への酸化ストレスは、皮膚の健常状態を損ない、外因性老化にともなう変化をはじめとする様々な病態を形成する。そこで、酸化ストレスによる皮膚障害に対する補剤の作用とそのメカニズムを明らかにする目的で、マウスモデルを用い、紫外線照射による皮膚の機能低下や形態学的変化を指標とし、補剤投与群と非投与群の比較を行った。その結果、補中益気湯内服は、紫外線照射による皮膚角質水分量の低下や、経表皮水分喪失量の増加といった皮膚機能低下や、酸化ストレスに伴う角層カタラーゼ活性の低下やカルボニル化蛋白の増加を有意に抑制した。一方、補中益気湯そのものの抗酸化能はアスコルビン酸と比較して低いことを確認し、補中益気湯投与マウス皮膚における遺伝子レベルの検討を行い、抗酸化関連蛋白系に著変なく、炎症などに関連する蛋白の誘導系に低下を認めたことから、補中益気湯の角層カタラーゼ系への作用は、間接的、複合的な作用であると考えられた。補中益気湯は、さらに、紫外線による表皮肥厚と表皮細胞数の増加についても顕著に抑制し、紫外線による皮膚障害に対して総合的な予防効果を有することが明らかとなった。
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