本研究ではメソトレキセート誘発小腸上皮傷害に対する補中益気湯の改善作用、その作用メカニズムの解析および作用成分の解明を行うことを目的とする。 抗がん剤のメソトレキセートの前処置により作製した小腸上皮傷害モデルマウスへの補中益気湯の投与は上皮組織でのTNF-αやIL-1β mRNAや当該タンパク分子の発現を抑制し、抗炎症作用を示すことが明らかとなった。本作用の発現に関与するメカニズムについて検討を行った結果、IL-1 receptorやTLRなどMyD88介在性の下流のシグナルカスケードにおける制御性分子のIRAK-MのmRNA発現に加えA20、CyldおよびSIGIRR mRNAの発現を補中益気湯の投与がメソトレキセート処置1日後に有意に増強していた。以上のことから、補中益気湯がメソトレキセート投与により生成した変性DNAに起因する炎症性シグナルカスケードにおいてこれらの抑制アダプター分子の発現増強作用を介して小腸上皮組織での粘膜炎症を速やかに終息させることが強く示唆された。 さらに活性成分の探索から補中益気湯に含有されるフルクトオリゴ糖類が小腸上皮細胞株(IEC-6)やマクロファージ細胞株(RAW264.7)でのIRAK-M mRNA発現や当該タンパクの発現に対する増強作用を示すこと、およびSIGIRR mRNAの発現増強を介してメソトレキセート前処置マウス小腸での粘膜炎症を改善する作用を有することを明らかとした。一方、補中益気湯の上気道粘膜免疫賦活化作用は脂溶性成分含有画分と多糖画分の組合せでは発現されず、これらの画分とオリゴ糖含有画分の組合せにより発現されることがあきらかとなった。また、オリゴ糖含有画分の経口投与はパイエル板での種々のサイトカインやホーミング受容体発現を変化させることも明らかとなった。
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