平成24年度は、合計5例のがん性疼痛患者のデータを取得できた。対照(C)群3例、くも膜下モルヒネ投与(M)群は2例であった。C郡の3症例は、胆管がんによる腹膜播種、腸管閉塞を来した症例、膵臓がんによる腹膜播種、腰椎転移を来した症例、腎臓がんによる肋骨転移を来した症例であった。M郡の2症例は、肺癌(パンコースト腫瘍)による腕神経叢、肋骨浸潤を来した症例と、同様に肺癌による胸椎転移、広範囲胸膜浸潤を来した症例であった。1日当たりの塩酸モルヒネ投与量はC郡305mg/日、M郡340mg/日、疼痛評価の尺度(VAS)はC郡85、M郡91であった。毒性指標(National Cancer Institute-Common Toxicity Criteria[NCI-CTC])の有害事象17項目の内、平均Gradeが3以上であったのは、両郡とも疲労・倦怠感、食欲不振、便秘、体重減少であった。包括的尺度である機能主義的QOL調査票(SF-8)は、両郡とも全項目で10%以下であった。1週間後の1日当たりの塩酸モルヒネ投与量はC郡350mg/日、M郡11mg/日、VASはC郡75に対してM郡25と著減した。NCI-CICは、C郡で新たにGrade3以上の項目として意識レベル低下、人格・行動が新たに加わり、M郡では食欲不振と便秘がGrade3以上の項目から外れた。SF-8はC郡では全項目で10%以下であったが、M郡では全項目で数10%改善した。1ヶ月後の1日当たりの塩酸モルヒネ投与量はC郡550mg/日、M郡21mg/日、VASは、C郡45、M郡16であった。NCI-CTCは、C郡で新たにGrade3以上の項目として記憶障害、めまい・ふらつきが新たに加わり8項目となり、M郡ではGrade3以上の項目に変動はなかった。1週間後のSF-8は、C郡では全項目で10%以下であったが、M郡では全項目で数10%改善したままだった。以上より、がん性疼痛患者に対してくも膜下モルヒネ鎮痛法を導入する事により、明らかな鎮痛状態の改善、1日当たりの塩酸モルヒネ投与量の減量、副作用の改善、身体的精神的状態の改善が得られた事が示唆された。当然の事ながら、くも膜下モルヒネ鎮痛法の費用対効果も優れている事が示唆された。
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