研究課題/領域番号 |
23590900
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研究機関 | 明治国際医療大学 |
研究代表者 |
川喜田 健司 明治国際医療大学, 医学教育研究センター, 教授 (60076049)
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研究分担者 |
岡田 薫 明治国際医療大学, 医学教育研究センター, 准教授 (60268175)
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キーワード | 神経生理学 / 鍼臨床試験 / シャム円皮鍼 / 微小神経電図 / 側坐核 / 心地よさ |
研究概要 |
昨年度実施した研究の成果をふまえ、今年度は、無髄C線維の機械ー熱反応性のユニット放電をヒトで微小神経電図法を用いて導出し、真の円皮鍼とシャムの円皮鍼の生理活性の違いをより詳細に比較した。また、近年心地よさとの関連で注目されている無髄のC触受容器からの単一放電の導出を試みた。 ヒトの機械ー熱反応性ユニットの円皮鍼に対する反応に関しては、複数の円皮鍼刺激の空間的加重の現象は認められず、また、反応は一過性であり持続的放電は得られなかった。また、受容野に対する小児鍼よる擦過や爪楊枝による機械的刺激にもよく応じた。しかし、C触受容器からの単一神経を記録することは出来なかった。 一方、ラットにおける円皮鍼刺激(本物とシャム)に対する反応性を、麻酔下の視床腹側基底核(VB)と側坐核(AC)の単一ニューロン活動によって解析した。記録できた侵害特異性(NS)ニューロンの受容野に対する円皮鍼刺激は、比較的高頻度の持続的な反応を示すものが側坐核で多く認められた。また、興奮性のほか抑制性の反応を示すニューロンも多く認めた。一方、シャム円皮鍼刺激は、VBとACのニューロン活動にほとんど影響を与えなかった。 これらの結果は、従来のシャム鍼の生理活性を明確に示すものである。これまでの鍼の臨床試験では、真の鍼とシャム鍼の比較の際にシャム鍼の非生理活性を前提として解析が行われてきた。そして、両群間に有意な差が無いことをもって鍼の特異的効果を否定されてきたが、その前提の誤りが明らかになったことから、これまでの臨床試験の結果の解析に再考を促す成果である。また、円皮鍼が、きわめて微細な刺激であり、ほとんど無感覚であるにも関わらず、ラットのデータにおいては、心地よさに関連するとされる側坐核ニューロンへ顕著な反応を引き起こしたことは、微細な鍼刺激の作用機序を考える上で興味深いものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はラットの実験を中心に進めることを計画していた。研究協力者の尽力もあって概ね順調にデータの集積と解析は順調に進んできた。その結果の解析にあたり、その反応の多様性についての検討には若干の遅れが生じている。 一方、ヒトの微小神経電図のデータ集積についても終了し、データ解析に移行した。記録データの再生の折りにレコーダの故障によるテープ破損というアクシデントがあり、予定より解析に手間取ったところがある。 いずれのトラブルも十分に対応が可能であり、研究の目的とするところの達成には問題はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題は、鍼の臨床試験における従来のシャム鍼のもつ非生理活性という前提の誤りを神経生理学的な方法によって明らかにすることであった。その意味では、今回の研究によって一定の成果を得たといえる。鍼の特異的効果を証明するためには、本物とシャム円皮鍼を用いた一定規模のRCTの実施が不可欠であり、そのために今回の成果をひろく知ってもらう必要がある。そこで、学会での発表と論文の投稿を行う。 また、鍼の効果として、ラットの実験データが示したような、きわめて微細な刺激による側坐核でのニューロンの興奮は、日本の伝統的な鍼手技が細い鍼を用いて浅く刺すということで特徴づけられており、主観的な感覚強度に乏しいものであっても、十分に中枢神経系においては生理的活性を持っていることを示しており、鍼刺激の心地よさという面の研究もきわめて重要な課題と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては、研究成果の発表のための学会出張の旅費、学会参加費、論文の投稿に関する論文校正費、報告書印刷費への使用を予定している。
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